2019年2月から始まった日本での同性婚訴訟。現在、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5都市でそれぞれ訴訟がおこなわれています。2021年3月、札幌地裁で初めて「同性間の婚姻を認めないことは憲法違反」との判決が出たことは大きなニュースとなり、世の中の記憶にも新しいはず。そして、今日6月20日には大阪でも判決が出ます。

この結果は、同性のパートナーと結婚したいと思っている人たちだけでなく、今の結婚制度の不備によって生きづらさを感じている人たちの将来をも左右するもの。そこでこのたび、Netflixの人気番組『クィア・アイin Japan!』の出演でも知られるKanさんと一緒に、なぜこの同性婚訴訟に注目すべきなのか、同性婚が可能になることは日本に住む人や関わりをもつ人にとってどのような意義があるのか、考えてみました!

Kan
大学在学中にカナダに留学。大学卒業後はイギリスへ渡り、大学院でジェンダー・セクシュアリティについて学ぶ。帰国後は化粧品会社に入社し、マーケティング業務を担当。2019年にNetflix『クィア・アイin Japan!』のエピソード2に出演し、注目を集める。性的マイノリティ当事者として、自分らしさやセクシュアリティをテーマにSNSでの発信や企業、学校での講演活動をおこなっている。2021年9月にパートナーのTomさんとイギリスで結婚。現在イギリスで暮らしている。Twitter:@kankanyonce  Instagram:kanyonce

 


遠距離恋愛のゴールとして決めた結果の結婚。イギリス移住は唯一の選択肢だった。


――Kanさんは2021年9月にイギリス人のTomさんとイギリスで結婚されました。まずはTomさんとどのように出会い、どのように交際を続けてこられたのか教えていただけますか?

Kan 出会いは、僕がジェンダー・セクシュアリティ論について勉強するためにイギリスの大学院に留学したことがきっかけです。そこでアプリを通じて出会って、意気投合して交際に発展しました。でも僕の大学院が終了して、2018年の2月に帰国することになって。そこからは遠距離恋愛になったんですけど、お互いが年に2回ずつ行き来するということで、3ヵ月に1回は会えていたんです。

でも、コロナウイルスのパンデミックが起きて。2020年の1月を最後に会えなくなってしまいました。このままだといつ自由な移動が再開して会えるのか分からない。もちろん一緒に住むことも難しい。だったら結婚して僕が配偶者ビザを取得してイギリスに移住するのがベストだよね、ということで昨年の7月にイギリスに移住をして、9月の中頃に結婚をしたんです。

――結婚を意識し始めたのはいつ頃からだったんでしょう?

Kan 遠距離恋愛を始めるときですね。大きなコミットメントである遠距離恋愛にはやっぱり「ゴールが必要だよね」と話し合って。そのゴールは「3年後をめどに一緒に住む」ことと決めたんですけど、僕たちはお互いに外国籍だから、どちらの国で暮らすにしろ、家族として一緒に住むためには配偶者ビザが必要でした。それで必然的に結婚を前提としたお付き合いになった、というわけです。

幸いなことにイギリスは同性婚をすでに実現している国だったので、僕がイギリスに行けば結婚して一緒に住むことができる、という安心感はありました。でも日本では同性婚が実現していなかったので、日本での結婚生活を検討できないのは悲しいな、という気持ちでしたね。

――イギリスに行って結婚することを決めたのは、それしか選択肢がなかったというのも実情なんですね。

Kan 日本の状況もいずれ変わるかも、という期待はありました。でも、他者や状況といった、どうなるか不確定なことに大事な自分の人生を委ねるのは嫌だな、という思いは正直あって。僕たちは遠距離恋愛を始めて3年にあたる2021年をめどに、遠距離恋愛を終わらせて結婚するつもりでいたんです。そのタイミングで日本での同性婚が制度として実現していたら、今、日本で結婚生活を送っていたかもしれません。でも結局実現しなかったので、そのときあった選択肢である“イギリスでの結婚”を選んだんです。

――日本でも、パートナーシップ制度を取り入れている自治体は増えてきています。そちらを検討されたこともあったんですか?

Kan それも検討すらできなかったんですよ。というのもTomは外国籍なので。パートナーシップ証明は各自治体がおこなっているものなので、たとえば渋谷区だったら渋谷区に居住している必要があるんです。それって、もう住む権利を持っている前提の話なので、Tomが住むためのビザを持たない以上、僕たちには検討すらできなかったんです。でももし選べたら選びたかった。

パートナーシップ制度じたいは、僕はすごく賛成していますし、意味があると思っています。これって、国が同性カップルに法的な保障を与えていない中で、地方自治体が住んでいる人たちのニーズにこたえて独自で制度を打ち出している、ということですから。自治体がそうやって動いていくことによって、ゆくゆくは「国としての法的保障が必要だよね」という議論になったり、運動につながったりしていくと思うんです。だからすごく意味がある大切な制度だと思っているんですけど、ただ残念ながら僕たちは選べなかった……。