人真似をしている暇はない──美しさと年を重ねることについて
 


美しいというのは美人やお化粧が上手な人ではなく、
まず、ひとりでいられる人。

──『ゆうゆう』(主婦の友社)2018年3月号「[ひとり時間を楽しむ知恵]『ひとり』の時間を得るために家事や介護=女の仕事という刷り込みをなくそう 下重暁子さん(作家)」より


多くの人が美しくなるために容姿を磨き上げると思いますが、下重さんの考える美しさはそのようなものとは違っていました。「若い人でも電車でひとり本を読んでいたり、コンビニのコーナーに座って、本を読んだりパソコンに向かっていたりするのを見ると、すごく美しく見えます」。ではなぜ、ひとりでいる人は美しく見えるのか? 下重さんはその理由をこのように考えていました。「ひとりでいられるというのは、精神的に自立している人なんです」。

精神的に自立している──下重さんが理想とする美しさを体現した一人が、取材で出会った瞽女(ごぜ:昭和の頃まで存在した目の見えない女芸人)の小林ハルさんでした。下重さんはハルさんの美しさをこのように表現しています。「自分自身を見つめることから生まれた内面の美しさが、自然とにじみ出ていたのです」。


品性とは育ちや環境によってではなく、
自分自身と対話を重ねてきたかどうかによって決まる。

──『週刊現代』(講談社)2018年5月19日号「[インタビュー 書いたのは私です]下重暁子」より


下重さんは「ハルさんには、本当の孤独を知った人にしか持ちえない突き抜けた明るさがあって、目が見えなくても、針仕事も料理も何でもひとりでできてしまう」と評していますが、その明るさの一端をハルさんが発した言葉にも見ることが出来ます。「(ハルさんは)『いい人と歩けば祭り、悪い人と歩けば修業』と口癖のように言っていましたが、ハルさんは自分の人生そのものを修業と捉えていたのでしょう」。どう転んでも前向きになるようなこの発想を、いかにして獲得したのか。それを考えると、彼女がどれだけの苦難に直面し、それを切り抜けるためにどれほど自分自身と対話を重ねてきたかが分かります。このしなやかな強さこそが、下重さんの考える人間の「品性」だったのではないでしょうか。

 


年をとると、持ち時間、体力、お金、すべてが減ってくるんです。
若いときのように試行錯誤したり、人真似をしている暇はないの。

──『きょうの健康』(NHK出版)2005年2月号「熱中人生[35]作家・下重暁子さん 趣味は好きなものだからこそ真剣にやらなくちゃね。」より

 


この発言を見ると、下重さんにもハルさんと同じ「突き抜けた明るさ」があることがわかります。加齢によるデメリットを素直に受け入れながらも、それを悲観するどころか、前進する力に変えてしまうのですから。「好きなことをせずに人生を終えたら、何のために生きたのかわからない。自分の残された持ち時間、体力、お金を使って、本当に好きなことをやり、自由に羽ばたかなくちゃ」。

 

『孤独を抱きしめて 下重暁子の言葉』
著者:下重暁子 宝島社 1430円(税込)

「孤独」「自由」「家族」「老い」「矜持」などをテーマに、作家・下重暁子さんが過去に新聞や雑誌、自著で語った100の言葉を一冊に収録。人生にとって本当に必要なものは何なのか──下重さんの生きざまが投影された言葉たちが、それを知るための手がかりとなるでしょう。


構成/さくま健太