2022年5月5日、米ホワイトハウスを訪問し、ヘイトクライム撲滅を訴えたBTS。(写真:AP/アフロ)

突然、「グループ活動を暫定的に控え、個人活動により集中する」と発表したBTS。7人の心の内は、涙ながらに葛藤を吐露したYouTubeチャンネルだけでなく、過去にリリースされた音楽からも浮かび上がってきます。

そんなBTSの世界観とデビュー初期からの歩みを哲学で読み解いた本が、『BTSを哲学する』(チャ・ミンジュ著、桑畑優香訳/かんき出版)です。これまでの楽曲には、BTSのどんな思いが込められているのでしょうか。著者のチャ・ミンジュさんインタビュー後編では、BTSが世界的名声を得る前と後の変化や、彼らを理解するための哲学書などについて聞いてみました。

 


インタビュー前編
「BTS「活動休止宣言」と最新アルバム『Proof』に込められた“本音”【「BTS哲学本」著者が解説】」>>
 

※文中の歌詞の翻訳は、BTS公式YouTubeチャンネルに掲載されたものはそちらを引用。それ以外は訳者の翻訳です。


ワールドスターになる前も今も、BTSの哲学とメッセージは変わっていない


――そもそもBTSに興味を持ったきっかけを教えてください。

チャ・ミンジュさん(以下チャ):BTSがデビューした時から知っていました。名前がすごく印象的だったからです。音楽も何度か聴き、アルバム 『DARK&WILD』のリード曲「Danger」でカムバックした時は、音楽番組でもよく観ていましたが、特別関心を寄せていたわけではありません。そんななか、2016年の秋、旅行で電車に乗っていた時にアルバム『WINGS』を聴いて大きな衝撃を受けたのが、深くハマったきっかけです。哲学的、自伝的な問いと答えを盛り込んだBTSの歌が、わたしの魂に響いたのです。

――『BTSを哲学する』を執筆しようと思ったのはなぜですか。

チャ:BTSは他のグループとは異なり、音楽に特別なメッセージがあるけれど、それがまだ知られていないと思ったのです。「BTSはたんなる人気アイドルではないと伝えたい。それを説明するには哲学的なメッセージと結びつけて説明しなければならない」。そんな使命感に駆られました。

チャ・ミンジュ/韓国で生まれ育つ。輝きながらも声を発することのない現象やモノ、人々に対して関心や愛情を抱き、文章を書きはじめる。哲学とデザイン学、美学、経営学に興味をもち、文学と美術、音楽と建築をはじめ、さまざまな実用芸術を愛している。弘益大学でオンラインでのイメージを利用したコミュニケーションに関する論文で美術学博士号を取得。西洋哲学者たちの理論をオタク文化で解釈し、オタク文化の価値と意味を熟考した努力の結晶である『オタクと哲学者たち』を2021年に出版。今後もオタク文化に対する偏見を正し、哲学の大衆観点からオタク文化の価値を伝えるために努力していきたいと思っている。


――『BTSを哲学する』を執筆したのは2017年でしたが、以降のBTSの世界的な活躍をどのような視点で見ていますか。その後世界的スターになりましたが、彼らの哲学はどんな風に変わっているのでしょうか。

チャ:哲学とは、自分自身に対する問いと答えです。BTSの音楽が哲学的なのは、自分への問いと答えを語っているからです。

わたしが『BTSを哲学する』を韓国で出版した頃は、BTSはまだワールドスターではありませんでした。青春の不安、挫折、挑戦に対する自問自答が当時の彼らの哲学でした。音楽に乗せた彼らの自伝的な問いと答えに、不安でつらい思いを抱える若者たちは自らの人生を重ね、癒しと力を得たのです。

2022年現在、ワールドスターになったBTSには、これ以上登る場所がない高みに達したように思えます。しかし、人間である以上、一生不安と苦悩から解放されることはありません。2022年にリリースした『MAP OF THE SOUL : 7』のリード曲「ON」で「怖くないわけがない すべて大丈夫なわけがない…Bring the pain…倒れても起き上がり scream」と歌い、今も恐れと痛みが存在すると明かします。より高い場所で感じる苦痛や恐怖は、以前よりもさらに大きいはずです。

ワールドスターになった今も、「自分に投げかける率直な問いと答え」という彼らの哲学とメッセージは変わっていません。ただ恐れと悩みの種類が変化したのだと思います。自己省察のみならず、人種差別のような大きな問題に対する痛みも感じているようになったからです。