『Proof』収録曲の中で一番BTSらしいのは「Born Singer」「Run BTS」


――アンソロジーアルバムに含まれる中で、特にBTSらしさを感じる曲とその理由を教えてください。

 

チャ:BTSらしい曲には3つの種類があると思います。

① 厳しい現実のなかで、つらくてもエネルギッシュに夢にチャレンジする若者の率直なモノローグ
② 強烈なビートに乗せた社会への抵抗/批判を込めた曲
③ 不安に揺れる若者たちに勇気と癒やしを与える美しい詩

今回のアルバムで一番BTSらしいのは「Born Singer」「Run BTS」です。「Born Singer」は ①のタイプ、「Run BTS」は②のタイプの曲です。

「Born Singer」
小説を読みながら、わたしたちは他者の人生を通じて自分の人生を振り返ります。「Born Singer」は、まるで小説のように生き生きと、BTSの音楽がわたしたちの人生に重なる曲です。この曲は、2013年7月にデビュー1ヵ月記念に無料で配信されました。その時には「厳しい現実を乗り越えて夢に挑戦する若者の独白」だと思ったのですが、実際は「夢を実現するという決意の表明」だったのです。

「Run BTS」
「Not Today」「Mic Drop」「Dionysus」などの系譜を継ぐ、強いビートに乗せた覇気に満ちた歌詞が、とてもBTSらしいと感じます。彼らのソウルは、何といってもヒップホップ。歪んだことに対して批判の精神をもっているのが、BTSなのです。


「Born Singer」は実存主義を具現化した曲


――今回アルバムに初めて収録された曲と新曲について、哲学を絡めたレビューをお願いします。

チャ:「Born Singer」(初収録曲)
実存主義を唱えた哲学者ジャン=ポール・サルトルは、「実存(existence)は本質(essential)」と言いました。つまり「すべての物は本質的な目的があって存在するようになった」という意味です。例えば、ハサミは切るために生まれ、切ることがハサミの本質(essential)です。 鉛筆の本質は書くことです。 では、人間の本質とは? サルトルは、「目的なく誕生した唯一の存在が人間である」と述べています。

人間は目的を持たずに誕生しました。生きていくなかで自らが生まれた目的を見いだし、達成するのが人間です。自分が見つけた目的が正しいと実現し、証明する。これを実存主義といいます。実存主義は、ある意味、人間が背負った大きな荷物を意味します。目的を持たずに生まれたのに、自分が生きる目的を探し、証明しなければならないからです。


実は怖かった。
大口を叩いてみたけど自分を証明することが
ペンと本がすべてだった僕が 世界を驚かせるということが
I dunno,世の中の期待とあまりに違うのではないかと
(「Born Singer」の歌詞より)

「Born Singer」は、BTSの本質(essential)が、Singer(歌手)という目的を見つけ証明する姿を歌っています。つまり、実存主義を具現化した曲です。「大口を叩いてみたけれど 自分を証明することが」という歌詞のように、自分の本質は歌手だと明かしながらデビューしたことで、実存を証明したのです。

サルトルも、実存主義とは「投企」、つまりまず世の中に投げ出された自分の姿を構想し、実践的に証明して生きることだと述べています。