ノルウェーの注目映画『わたしは最悪。』は会話劇好き、坂元裕二ドラマ好きにきっと刺さるはず。主人公女性の20代後半から30代前半の恋とキャリアと日々の暮らしが描かれたその物語はリアリティあるセリフに溢れています。私って、失敗の多い人生かも……と、思い当たる節があれば、なおさら共感の嵐も吹き荒れます。
私たちの心の声に聞こえる「私の人生はいつ始まるの?」というセリフ
ラブストーリーであり、自分探し物語であり、現代社会に生きる人間を描く映画。ノルウェー生まれの『わたしは最悪。』は一般的なカテゴリーに収めるには勿体ない作品です。主人公のユリヤを演じたレテーナ・レインスヴェが第74回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞したのを皮切りに、数々の賞を席捲。第94回アカデミー賞では脚本賞と国際長編映画賞にノミネートされた実力作でもあります。
作品の魅力は何と言っても、さりげないリアリティあるたくさんのセリフと破壊的な脚本力。例えるなら、『大豆田とわ子と三人の夫』や『カルテット』など突き刺さる名言を送り出す坂元裕二ドラマのようです。言語は違えど、舞台はオスロと言えど、冒頭から連なるユリヤの“ぼやき”が私たちの心の声として聞こえてきます。
SNS社会に振り回され、むやみに選択が多すぎる今の世の中を生きるユリヤは、アート系の才能や文才もあるのに20代後半になってもこれといった道を見つけられず、人生のわき役気分のままでいます。誰が悪いわけでもなく、少しは社会のせいにもしながら奔放に進み、そして悶々とする日々。
「私の人生はいつ始まるの?」
これはまさにそんな気持ちを集約している名セリフです。かと言って、自分探しの旅を始める平凡な脚本に終わらないのもこの映画の良さ。流されるまま恋をするようにラブストーリーへと転換していきます。
それは狙いあってのことでしょう。女性なら一度や二度は悩む、妻や母というポジション取りの人生にも葛藤するユリヤの姿が描かれるからです。年上の恋人のアクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)と若くて魅力的なアイヴィン(ヘルベルト・ノルドルム)との出会いによって、彼女の人生のページが増えているのだと実感できます。
アイヴィンとのアブノーマルで斬新なデートも、ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』のように周りの時が止まるロマンチックシーンも粋です。そして、アイヴィンとユリヤの会話にある「フルネームは言わないで。Facebookで検索しちゃうから」というセリフも生々しいのです。
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