明かされた意外な理由
「はい!? 左様でございます、航空会社の者ですが、いかがいたしましょうか」
唐突に話しかけられ、咲月は思わず妙な返しをしてしまう。ワッフルにパスタを食べようとしていたことによる勝手な決まり悪さと、あとをつけてきた罪悪感が今更湧き上がってきた。
「休憩中ですよね、すみません。さっきカウンターで何回も聞こうとしたんだけど、勇気が出なくて。実は、今日、訳あって飛行機を何回もキャンセルしてしまって……。ネットでは一番高いチケットは変更可能って書いてあったから。でもきっと、すごく迷惑ですよね? 本当に良かったんでしょうか。実はまだ3つ予約を入れています。それから、もし今日の最終便まで乗らなかったら……チケットは払い戻しって、できるんでしょうか?」
咲月は「秋野 律」の優しく丁寧な話し方に、これまで心の中で悪態をついていたことを恥じた。予約を入れまくって消しまくるという、素人離れした方法から、てっきり確信犯で、そういう手口の常習者だと思っていたが、その逆で、飛行機の予約に全く慣れていない男であることが窺えた。そうだとすれば、何か事情があるのかもしれない。
何か、どうしても今日、二人で大阪に行きたい理由が。
「左様でございますね、それは厳密には違反ではありません。ただ、本日は満席をいただいていまして、本当にお席が必要なお客様にご迷惑をお掛けしていることも事実です。
もしよろしければ、例えばお連れさまの分だけ払い戻しすることも可能ですし、ご事情をお聞かせいただければ少しはお役に立てるかと」
咲月のとびきりの営業スマイルに、「秋野 律」は、どこかほっとした様子で、ポツポツと語り始めたのだった。
大阪に行くと何が起こる?
「本当に迷惑ですよね、すみません。実は、明日、別れた彼女の誕生日なんです」
「はあー。なるほど。それで誕生日を一緒に過ごしたいっていう……え、でも別れたんですよね?」
咲月は秋野の頼りなさそうな下がり眉を横から見た。日頃立ちっぱなしで接客をしているので、こうして座って話していると相手がお客様という感じがしない。友達と話しているかのような錯覚で、思わず気安く返してしまった。予約状況をPCで見たとき、秋野が年下の33歳であることを知っていたのでそれも影響したのかもしれない。
彼は、力無くははは、と笑うと、頷いた。
「彼女は僕の3つ上で、明日37歳になるんです。僕には勿体無いような人なんですけど、色々あって僕から別れて欲しいって頼んだんです。それをこの3カ月、ずっと後悔しています」
「3カ月? 振ってからウジウジ後悔して、連絡してないってことですか? 36歳って私と同い歳ですけど、振られるとこの世の終わりくらいダメージあるし、本当に貴重なんですよ、3カ月」
咲月は、秋野が「お客様」であることも忘れ、思わず突っ込んでしまう。
どこかで18時を知らせる時計の鐘が鳴る。出発ロビーはますます賑やかになってきた。ここから国内線は関西空港行きの21時まで、ほぼ全便が満席だった。
咲月は、話の先を促した。
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