「金はいくらでも使っていいから、歳をとらないでくれ」
「これは出会った当初からそうだったのですが、元夫は気性が激しくて派手なことが好きなタイプ。言ってしまえば、パワフルで少しぶっ飛んでいるような性格です。関係が崩れた原因の一つは、そんな彼に私がついていけなくなったからだと思います。
例えば、彼は週の半分以上は外食に行きたがるし、また海外と国内にいくつか別荘を持っていたので、ほぼ毎週末旅行に出かけます。家では家政婦さんがいるので問題ありませんでしたが、基本的に家事や育児をしない元夫の行動に0歳と1歳、小学生の3人の息子たちを連れて付き合うのは大変でした。
さらに彼は、現地で大勢の人を招いてホームパーティーをするのが好きで......すると私は子どもたちのお世話をしながら、その買い出しや準備、片付けをほぼ私1人でしなくてはならなかったんです」
毎週末旅行に出かけるとは優雅にも聞こえますが、実際、乳児を含む子ども3人連れの旅行は相当大変でしょう。
もちろん、子どもがいない期間は夏美さんもそんな旅行を存分に満喫していましたが、オムツ替えひとつ手伝わない元ご主人との子連れの外出が徐々に億劫になっていきました。
「『今週は〇〇に行こう』と言われると、どうしても笑顔で返事ができなくなりました。そして彼は、自分の思い通りに事が進まないとすごく機嫌が悪くなるんです......『もっと旅行好きの女と結婚すればよかった』と罵られたり、1人で家を出て行くこともよくありました」
また元ご主人は、産後の夏美さんの外見に関しても細かく口を出したそう。
「はっきり言って、彼はとにかく若く綺麗な女性が好きなんです。おばさんになった女に価値はないとか、口癖のように言っていました。私も『最先端の技術と金はいくらでも使っていいから、歳をとらないでくれ。夏美ちゃんは少しでも若くいて欲しい』としつこく言われました。
実際に、彼の希望で美容クリニックに通い色々と施術もしたんですよ。抵抗しても、結局機嫌が悪くなって論破されるだけなので。当時は分からなかったけど、いわゆるモラハラだったんだと思います」
こんな話を聞くと、あまりに経済力のある男性は恐い......と、どうしても思ってしまいます。結婚しているとはいえ、パワーバランスは常に夫が上。暮らしは裕福でも、精神的にも物理的にも夏美さんにあまり自由はなかったようです。
また時間が経つにつれ、元ご主人の高圧的な発言はどんどんエスカレートしていきました。
「『お前なんか、子どもを産んでなかったら価値がない』『俺に歯向かったことを土下座して謝れ』とか、ケンカのたびに、これまでの人生で聞いたこともない暴言をたくさん吐かれました。『離婚する!』と騒いで家出することも何度もあって。
でも彼の怒りが続くのはせいぜい1日くらいで、気が済むと態度がころっと変わり、平謝りですごく優しくなるんです。そんなサイクルにはまって、『私にはこの人しかいない』と本気で思っていました」
この流れは典型的なDV、モラハラのサイクルと思われますが、当事者となるとメンタルを保つのはなかなか難しいのでしょう。
「もしかしたら、今の私だったら......もう少し彼とうまく関係を維持できたかもしれません。私はもともと友達も少なくて“陰キャ”と言うんでしょうか、内気な性格で。だから専業主婦になり母親になって、世界のすべてが家族、元夫にすべてを委ねてしまっている状態でした。だからこそ、彼のモラハラもエスカレートしたような気がします。
でも、しょっちゅう罵倒されたり家出を繰り返されるうちに、私もどんどん疲れてしまって。この時はまだ元夫のことが好きでしたが、子どもたちのお世話も大変な中、彼をなだめて機嫌をとる余裕がなくなっていったんです」
彼とこのまま一緒にいるのが正解なのか? この人についていった結果、将来どうなるのか? 夏美さんはこの現状に徐々に疑問を抱くようになったそう。
「経済的にはとても恵まれているし、別れたら絶対に大変なことは分かっていました。でもこの状態に我慢し続けるよりも、別れるなら少しでも若い方がやり直しが効くと思って......あるとき、また彼が『お前なんか離婚してやる』と家出したタイミングで、私も同意したんです」
そのとき、夏美さんはまだ20代。
その後はまた激しいやりとりを経て離婚に進んだそうですが、夏美さんが一番辛かったのは離婚後に始まった元ご主人の攻撃でした。彼は新しい若い女性と付き合い始め、するとなんと、離婚の際に取り決めた養育費や財産分与をあらゆる手段を使って取り上げ始めたのです。
後編では、当時のお話を詳しく伺います。
取材・文・構成/山本理沙
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