お子さんがいる人なら必ず向き合う「性教育」。日本の学習指導要領では「性交は扱わない」とされていることに対し、それで子どもたちが正しい性知識を得られるのかという指摘が上がっています。正しい性知識を届けたい、そんな願いで描かれる『あの子の子ども』はごく普通の高校生カップルの予期せぬ妊娠を描き、淡々としながらもリアルな描写が性教育界で注目され、4巻が9月13日に発売されます。

『あの子の子ども』(1) (講談社コミックス別冊フレンド)


雪の中、近所の野良猫を心配する幼なじみカップルの福(さち)と宝(たから)は、親公認で仲良くしています。

 

一度だけゴムが破れ、避妊に失敗したことがある二人。ある時期から、福(さち)は食の好みが変わったり、吐き気に襲われるようになります。妊娠検査薬を使ってみると、陽性。しばらく呆然とすると、彼女は「妊娠初期症状」などをスマホで検索します。「基礎体温」の意味も知らないので、自分の身体に何が起きているのかがわからないのです。
その後、生理のような出血が起き、「生理ってことは妊娠してないってことだよね?」と妊娠の可能性を否定しますが、体調の変化は続きます。

 

15歳の夏から「時間と場所があればしていた」二人。でも、性行為の先にある妊娠や出産には無知でした。福は妊娠初期の出血を、短い生理か流産だと勘違いしていたし、宝も「妊娠すると確か生理が止まる」というおぼろげな知識しかありませんでした。 

 

明らかにつわりの症状が出ているにもかかわらず、福が妊娠を必死に否定しようとしたり、隠そうとする姿は、未知なるものへの恐れ。産婦人科で妊娠が確定し、困惑しながらも、二人は中絶するか、出産するかを選ばなければならなくなりました。

未成年の中絶には保護者の同意が必要になること、妊娠以降の選択肢と、それぞれを選んだ場合にかかる費用と周囲への影響も知らずにいた二人でしたが、それぞれが現実と向き合って、情報を調べはじめます。

中絶か、出産か。発覚時には即座に中絶を選んでいた福でしたが、近所のノラ猫が生きていたことや、超音波検査で見たお腹の中の「いのち」を見たことで、決意が揺らぎます。そして二人はある選択をするのですが⋯⋯。

10代の妊娠・出産に対し、リアルに真摯に向き合った本作。作者の蒼井まもるさんは、娘さんを出産したことをきっかけに性教育に関心を持ち、10代で妊娠し公園のトイレで出産してしまった少女のニュースを見て「これは社会の責任」だと感じ、「少しでも正しい知識を届けるお手伝いをしたくて」本作を描いている、と2巻の対談で語っています。

今までの性教育は、性の基本的なところを隠し続けてきました。特に10代での妊娠、という経験は個人も社会も秘密にしてきたようなこと。しかし、「知らないと 正しい選択もできない」。無知で、周りの言葉にぶれてしまう二人の姿は、社会が作り上げてきたもの。誰が責められるでしょうか。福が最初に行った産婦人科医の言葉に、作者のメッセージが込められています。

 

また、未成年での妊娠について回るのが、保護者の存在。親同士の「正しさ」がぶつかりあう場面も表層的ではなく、「なぜその正しさに至ったのか」がわかるように描かれています。福の母親は「二人の選択を尊重する」と言い、こう続けます。

 

 一方、宝の母親は「中絶しなさい」という主張を崩さず、その理由を語ります。

 

どちらが「正しい」のか⋯⋯。宝の母親の意見はきつく感じますが、そこには自分自身の経験に基づいた理由と、子どもへの愛があったのだと後からわかるのです。

妊娠で揺れる福の心理描写もリアルですが、彼氏の宝は令和を生きる10代男性らしい、と感じられます。妊娠発覚前から福を「守りたい」と言い続けてきた彼が、自分の無力さを受け入れた上で、妊娠・出産に関する情報を調べ尽くしてくるマメなところは今の時代ぽいな、と。「ヒーローはヒロインの圧倒的味方」という少女漫画のツボもしっかり押さえている本作。性教育のバイブルとして一人でも多くのお子さんに読んでもらいたいし、大人から是非子どもに手渡してほしいです。
 

 

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『あの子の子ども』
蒼井まもる 著

「わたし 妊娠したかもしれない」
女子高生の福(さち)には、幼なじみの恋人・宝がいた。ある日、体調に異変を感じた福は、妊娠検査薬を購入する。家から離れた、遠い町のファミレスで検査薬を使用した福の目に飛び込んできたのは、“陽性”を表す2本の線だった――。
「女子高生の妊娠」というテーマを真正面から描く、新たな少女漫画。


作者プロフィール
蒼井まもる

第458回別フレまんがセミナーでシルバー賞受賞後デビュー。代表作は『恋のはじまり』『さくらと先生』『マイ・ボーイフレンド』など。現在、『あの子の子ども』を「別冊フレンド」にて連載中。
Twitterアカウント:@ColruAM


構成/大槻由実子
編集/坂口彩