『東京ラブストーリー』『Age.35』『恋する母たち』などドラマ化された作品は数知れず。恋愛の巨匠とも呼ばれた柴門ふみさんの新作は、人生のしがらみを捨てて逃げてきたワケありの男女が集まる別荘地が舞台の『薔薇村へようこそ』。1巻が7月29日に発売されます。


ここは八ヶ岳や富士山がのぞめる薔薇村。「薔薇の郷別荘地」管理事務所スタッフの丸山倫太郎は、みんなからは「ホシオ」と呼ばれています。

 

今日も一人の男性が物件を見にやってきました。彼は西山慶一、50歳。ホシオの勘違いがきっかけで、彼は自分の身の上を語りはじめます。
私の身にあんなことが起こるなんて… 1年前までは平凡なサラリーマンだったんですがね

 

一年前、営業企画部長になったばかりだったのに、未経験の法務部への異動を打診された西山さん。彼が勤める会社は、三代目が社長に就任したばかりの一族経営のアパレル企業で、業界がファストファッションが席巻する中、創業時の高級路線をずっと追い続けていました。目をかけていた部下にも「もうこの会社はオワコンですよ」と転職することを告げられ、未来のない会社にこのままいてもいいのか悩んでいました。
自宅に帰ると、出迎えてくれたのは一人の若い女性・万里凛(まりりん)とその娘。彼女は28歳で、西山さんとは22歳差。3年前に離婚しパートで娘を育てていました。

 

 
万里凛は、元妻が子どもを連れて出て行って以来10年間一人暮らしをしていた西山さんの元に2ヵ月前に舞い込んだ幸せでした。翌朝、会社を辞めようかなと思っていると彼が言うと、万里凛は「お給料いいし絶対辞めちゃだめ!」と強く説得してきました。そんな彼女とマッチングアプリで出会ったことを部下に話すと、彼は言うのです。

騙されてません?

 

俺の金目当て!? ただ⋯⋯それだけ?
その後、西山さんは注意深く彼女の言動を観察しましたが特に怪しげなところもなく、若い彼女の優しさと身体にますますのめり込んでいきました。そして、数ヵ月後、法務部長になった彼の元に一通の手紙が届きます⋯⋯。

 

こうして、西山さんが薔薇村に訪れるまでの激動の一年が描かれます。万里凛の本性はどんな女なのか? また、離婚歴がある西山さんは、前の妻と子どもとはどういう家族関係を築いていたのか? そして彼が突然、法務部長になった本当の理由とは? 一人一人の思惑が丁寧に明かされていくと、ずるい人間のように見えた人物が善人に見えたり、いや、やっぱり悪いヤツなのでは? とすっぱり割り切れず、一筋縄ではいかない展開。玉虫色なキャラ造形は「人生はそんなシンプルではない」と示しているよう。これぞ、柴門ワールドの真骨頂である人間ドラマ!

本作は「伝統的な家族像から逸脱した家族」がテーマであることや、彼らが都会に疲れて自然豊かな別荘地への移住を考えるところがとても「今」を感じさせます。『東京ラブストーリー』から30年以上経った令和という時代の価値観やムードを切り取っているのも、さすがです。

 

そして、西山さんが思わず身の上をこと細かに話してしまった、薔薇村の管理スタッフ・ホシオはなぜか人に好かれる不思議な魅力を持つキャラ。西山さんは同性でしたが、女性相手の場合はどうなっちゃうのでしょう……? 薔薇村に訪れるワケありな人々の人生が語られるかたわらで、ホシオが実名を捨てて村で働く「ワケ」もきっと複雑なんだろうなあ、と思うのです。

 

【漫画】『薔薇村へようこそ』第1話を試し読み!
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『薔薇村へようこそ』
柴門 ふみ (著)

誰しも一度は人生をすべて逃げ出したくなったことがあるはず。しかし、現実のしがらみから、それを実現する人は多くない。別荘地「薔薇村」には、そんなしがらみを捨ててまで逃げ出した訳ありの人たちが暮らしている。彼らに待っているのは、再生か、それとも厳しい現実か。
柴門ふみが描く、令和の「家族のかたち」「夫婦のかたち」「幸せのかたち」。


作者プロフィール 
柴門 ふみ

弘兼憲史のアシスタントを経て、1979年「少年マガジン」増刊号から『クモ男ふんばる!』で漫画家デビュー。1980年には弘兼憲史と結婚。1981年「ヤングマガジン」に連載した『P.S. 元気です、俊平』が好評を得て、人気作家となる。『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『恋する母たち』などが代表作。現在、「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で『薔薇村へようこそ』を連載中。



構成/大槻由実子
編集/坂口彩