ドラマ化もされ、単行本が累計200万部超えの『喰う寝るふたり 住むふたり』(現在、続編『喰う寝るふたり 住むふたり 続』が月刊コミックゼノンで連載中)で知られる日暮キノコさん。何気ない日常をベースに、男女の心理描写を繊細に描くことを得意としていますが、それがたとえ“特異”な設定であっても、普遍的な悩みや心の機微を巧みに描き出しています。現在、実写ドラマが放映中の『個人差あります』や、8月23日に発売された『日暮キノコ短篇集 特異なあのコ』がまさにそうなのです。


“特異”だからこそ、浮き彫りになる普遍的な悩み


現在、ドラマが放送中の『個人差あります』(東海テレビ・フジテレビ系)は、ある日突然、男性が女性に、女性が男性になるという“異性化”という謎の現象をテーマにした作品です。子どものいない夫婦が主人公で、ある日、夫の晶が原因不明の頭痛に襲われ、搬送先の病院で女性の体になってしまったところから物語が始まります。性別が変わったことで激変する日常生活。晶は女性になって痴漢やセクハラなどに遭い、はじめて女性の生きづらさや苦労を実感することになります。また、妻や会社の同僚、上司なども晶が女性になったことで、今までの自分では気づかなかったことに気付かされ、変わっていくことになります。

 

男か女か、既婚か未婚かといったカテゴライズは、多かれ少なかれ誰にでも染み込んでいるものではありますが、そこには個人差があるはず。“異性化”という特異な設定だからこそ浮き彫りになるものは数多く、読み手も多くのことを考えさせられる作品です。

 『日暮キノコ短篇集 特異なあのコ』もまた、主人公がみな“特異体質”の持ち主で、男女関係が織りなす5つの短篇集です。

1話目の「inuカップ」の主人公は中学2年の女の子。思春期に差し掛かり、胸が大きくなるなどの変化が訪れる時期です。だけど、なぜか彼女の胸はある日突然、柴犬になってしまっていたのです。胸が大きくなる時期や大きさには個人差はあるものの、さすがに柴犬は差がありすぎて、親にも友達にも相談できません。そんな悩みを抱えている時に、密かに憧れていた同級生から告白され――、というお話です。

ドラマ『個人差あります』にハマったらこれも。“特異体質”の男女が織りなす、5つの物語。『日暮キノコ短篇集 特異なあのコ』_img1

 

2話目の「0229 〜スロウリィ・ロング・ライフ〜」は、4年に1度の閏日である2月29日に生まれた女性・閏子(じゅんこ)。が主人公。それだけならまぁ、珍しいもののいないわけではありません。しかし、彼女は4年に1度のこの日しか年をとらない特異体質の持ち主でした。明治41年に生まれ、13歳で母を失い、20歳で78歳の妹が亡くなり、友人や親戚を次々と見送った彼女は、令和の今、一人で生きています。大切な人たちとの悲しい別れを何度も経験しているからこそ、もう誰とも深く関わらないで生きていこうと決めたはずが、ある日、年下の大学生に告白されます。閏子の選択やいかに?

ドラマ『個人差あります』にハマったらこれも。“特異体質”の男女が織りなす、5つの物語。『日暮キノコ短篇集 特異なあのコ』_img2

 

3話目の「ふかいキス」は、今年の描き下ろし作品です。舞台となるのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、マスク生活が日常になった現在。主人公の女子大学生がいま一番気になっているのは、キャンパスで見かける、とある男子大学生。言葉を交わしたことはないものの、飲み物を飲む時などにちらりと見える、マスクの下に隠された舌の動きが気になってしょうがない。もし彼とキスをしたらどうなる!? と妄想が止まらない彼女は――。

ドラマ『個人差あります』にハマったらこれも。“特異体質”の男女が織りなす、5つの物語。『日暮キノコ短篇集 特異なあのコ』_img3

 

4、5話目は、現在の絵のテイストとは少し趣が異なる「恋愛系お花体質」と、「充電彼女」。いずれも、日暮さんが別冊フレンドからデビューして数年後に描かれた読み切りです。高校生の男女の恋愛を描いているものの、どちらも特異体質を持つ女の子が主人公。恋心と自分の体質の間で悩む女子の初々しさにキュンキュンさせられます。

どの短篇も特異体質の設定こそ現実離れしているものの、その体質の持ち主たちは、思春期特有の悩み、大好きな人であってもいつかは迎える別れの辛さ、勇気を出して伝えたのに理解されない悲しさなど、私たちと同じような葛藤に直面しています。だからこそ、一つひとつの物語がすっと心に染み入ります。どれも素敵なエピソードなので、手元に置いておきたくなるはず。

今回は特別に、「inuカップ」を1話まるごと読むことができます。自分のおっぱいが柴犬になるって、意外もいいところで相当困るだろうけど、あんなにかわいいわんこたちなら、1日くらいなら体験してみたいかも。

日暮キノコ(ひぐらしきのこ)
神奈川県出身。第29回別冊フレンド新人まんが大賞の佳作を受賞し、2005年にデビュー。以後、少女誌を中心に活躍。2012年に開始した青年誌での初連載作『喰う寝るふたり 住むふたり』が大きな話題を集め、同作は2014年にTVドラマ化。
著作に、『喰う寝るふたり 住むふたり』(全5巻)『喰う寝るふたり 住むふたり 続』(既刊1~3巻)『なないろ胞子 日暮キノコ短篇集』(以上、コアミックス)『モンクロチョウ』(全3巻)『ふつつか者の兄ですが』(全6巻)『個人差あり〼』(全6巻/以上、講談社)など。
自他ともに認めるラーメン(特に二郎)好き。

 

 

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『日暮キノコ短篇集 特異なあのコ』
日暮キノコ 講談社

大ヒット作『喰う寝るふたり 住むふたり』の著者で、連続ドラマが放送される『個人差あり〼』をモーニングで連載していた日暮キノコ氏。ネットで大きな評判を生んだ『0229』をはじめに、著者が描いた「特異」な人たちを集めた、心揺れる短篇集!!

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