誰もが抱えるささやかな「嘘」にまつわる、オムニバス・ストーリー。
決戦の花火大会
「二人とも、急のお誘いでごめんなさいね。私の初等科からの幼馴染と前から予約をしていたんだけど、彼女たちお仕事が入ってしまって。来てくれて助かったわ」
早穂子は、後ろめたさから饒舌になっている自覚があるが、嘘をつきなれていないため仕方ない。東京湾沿いに立つホテルのテラスソファ席で花火大会の観覧は、早穂子の夏の恒例行事。発売とともに売り切れる特等席だが、長年の伝手で用意してもらえるため、毎年のように家族か親友たちと出かけていた。
今夜は、それをダシにして光輝と、彼女の真凛を呼び出した。断られるかともしれないと思ったが、若いカップルはさほど恐縮することも警戒することもなくやって来た。
「まったくお母さん、花火はいいけど前日夜って急すぎだよ。金曜夜は何かと忙しいんだ」
「おかーさん、こんばんは。この席すっごいですね、こんなとこ初めて来ました、マジキレイ!」
席に着くやいなや、真凛はさっそくスマホで夜景をパシャパシャと撮影している。ふてくされている光輝よりも可愛げがあるというものだ。
――だめだめ、目的を忘れちゃ。先週挨拶に来て、早々の呼び出しでちょっと気が引けるけど……話し合うなら早めのほうがいいものね。
早穂子は、友人たちとの会話を反芻し、1人夕闇のソファ席で頷いた。
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