内閣府男女共同参画局の「男女共同参画白書(概要版)平成30年版」によると、1980(昭和55)年以降、共働き世帯が年々増加し、1997(平成9)年以降は専業主婦世帯の数と逆転し、2017(平成29)年には、共働き世帯が1188万世帯、専業主婦世帯が641万世帯と倍近くの開きになっています。そのため、令和の今、結婚して夫の稼ぎのみで生活できる専業主婦は希少で、「勝ち組」などと言われたりもしていますが、専業主婦は本当に恵まれていて幸せと言えるのでしょうか? モーニング・ツーで連載中の『都合のいい果て』の主人公・透子(とうこ)も専業主婦。団地の一室で遅くまで帰ってこない夫を待つ日々を送っていましたが――。

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『都合のいい果て』(1) (モーニング KC)


傍から見れば恵まれた専業主婦。でも実は……。


結婚しても仕事を続ける、続けないの判断は人それぞれ。専業主婦を選ぶ人もいれば、仕事が好きで働き続ける人もいますし、夫だけの稼ぎでは暮らしが成り立たず、やむを得ず働く人もいます。「都合のいい果て」の透子はどういう経緯で専業主婦を選んだかはわかりませんが、夫の渉が帰ってこない家で、一人じっと待つ姿は、傍目には幸せそうには見えません。

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ある日も1時近くまで帰ってこない渉を待っていたところ、泥酔した渉が会社の部下二人に連れられて帰ってきました。新年会で飲みすぎたようで、部下のうち一人は美しい女性でした。新年会のビンゴで当たったというハムの詰め合わせと、謎の販促用等身大パネルを渡され、二人が渉をリビングルームに運び込みました。部下二人は部屋を見回し、口々に透子と渉が暮らす団地のような集合住宅の環境の良さを褒めました。二人も酒が入っているせいか、なかなか帰ろうとはしません。

 

酒を飲みすぎた渉はトイレに行き、男性の部下もトイレが我慢できなくなって部屋を飛び出し、透子は女性部下・高城と二人きりになりました。高城は窓の外に立ち並ぶ集合住宅を眺めながら、透子たちの住む、建て替えられて新しくなった棟の環境の良さを褒めつつ、ここなら旦那さんが帰ってくるのを待っていられますね、と意味深な台詞を吐きます。

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そして、「私も結婚したら不在の旦那を待ってるとか耐えきれないかも」「しかも こんな頑丈な部屋でひとりなんて苦しそう だったらひとり身の方がまだマシかなって」と言葉を続けます。でもこう思うのは自分の強がりであって、本当は羨ましいんです、と言うものの、言葉の端々に刺々しさが感じられます。一方的に話すだけ話して帰っていく高城。あっけにとられる透子の目に映ったのは、渉のスマートフォンでした。手にとってスマートフォンを傾けて見ると、液晶画面にうっすらと指紋の跡が残っていました。開いてみると、そこにはさきほど帰宅した高城からのメッセージがあり、「こんどまたゆっくり」という、これまた意味深な一言とスタンプが表示されていました。渉と高城はただの上司と部下という関係ではなさそうです。

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渉がトイレから出てきて、さっとスマートフォンを元の位置に戻す透子。渉とはとうに冷めた関係性だったものの、高城との不倫を知ってしまい、渇きにも似た満たされない思いから、衝動的に女性用風俗に予約を入れてしまったのでした。

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夫の不倫を知り、女性用風俗で男を買う妻。


ある日の昼下がり、透子の家に来ていたのは近所に住む噂好き主婦・典江で、団地内のさまざまな噂話を一方的に喋っていました。その一つが、出されたゴミのチェックをよくしている主婦の村井が、4号棟に住む主婦のゴミを漁っている時に、使用済みの避妊具を見つけて言いふらし、それがきっかけで4号棟の主婦がレンタル彼氏を家に呼んでいたことがバレた、というもの。典江がビールを飲みながら「ホント気持ち悪い」と吐き捨てるのを聞いた透子はドキリとします。

そんな時に、透子のスマートフォンが鳴りました。その場で電話には出ず、典江には「弟が来るので」と伝えてやり過ごし、彼女が帰った直後に、慌てて電話を折り返しました。相手は、透子が夜中に予約を入れた女性用風俗から派遣された男性だったのです。慌てて着替えてリップを塗り、結婚指輪を外す透子。玄関に現れたのは、祥示という名の青年。透子はひと目で心を奪われてしまいます。

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祥示は透子の手を取り、ゆっくりとキスをしていきます。はじめは恥ずかしがっていた透子でしたが、激しく求められ、夫との冷めきった生活で満たされない思いを埋めようとします。

祥示が“仕事”を終えて帰る先は、とあるシェアハウス。男女数人で生活しており、同居人たちは祥示がどんな仕事をしているか知っています。シェアハウスのリーダー格である大槻は、“おばさん”を抱く祥示の仕事を馬鹿にしつつも、「いい話」があると持ちかけます。それは犯罪の匂いがする案件のようですが、祥示は曖昧な返事を残して自分の部屋に帰ります。

同じ頃、風呂から上がってきた透子は、夫に「なんかソファが濡れてるんだけど」と指摘されます。そこは日中、透子と祥示が体を重ねた場所でしたが、夫は知るよしもありません。夫はそのソファに座ってテレビを見ています。透子は夫に、噂好きの主婦・典江から聞いた話などを話しかけますが、夫は全く耳を傾けようとせず、「寝る」と言い残して寝室に消えてしまいました。透子の虚しさは増すばかりで――。
 

 
 

満たされない思い。少し満たされると、さらに求めたくなる。


専業主婦で、団地内のきれいな部屋に住み、夫は建築関係の企業で部長という、条件だけ聞くと周囲に羨ましがられそうな透子のポジション。しかし、夫との関係は冷え切っており、その夫は専業主婦の透子を明らかに下に見ていて、常に高圧的な態度。さらには部下と不倫関係にあります。また、団地内では周囲の人たちの顔色を見つつ、目立たないように合わせるしかないという息苦しさを感じています。そのため、透子は孤独な気持ちを募らせ、「こんなはずじゃなかった」と不満を抱えています。ある日、祥示とのひとときで心身ともに満たされてしまい、それからというもの、彼のことで頭がいっぱいになってしまいます。

満たされたくて求めてみたら、もっと渇きを感じてしまった透子は、なんとか彼との時間を捻出すべく、夫の時計を無断で質屋に売り飛ばしてしまいます。祥示は淡々と仕事をこなしているように見えるものの、シェアハウス仲間に犯罪に引きずり込まれようとしていたり、縁を切っていたはずのろくでなしの父親から突然連絡が来たりと、問題を抱えています。

団地とシェアハウス、孤独な主婦と闇を抱えた青年。普通に暮らしていたら接点がないはずの二人が女性用風俗で繋がり、すれ違っていく。透子が女性用風俗を利用する1話から、話数を重ねるごとに濃厚になっていく不穏な空気。孤独を抱えた二人の行く末は破滅しかないのか? 

「女性用風俗で男を買う」なんて漫画の中の話であって、現実的ではない、と思うかもしれません。でも、透子が女性用風俗に手を出してまで満たされたいと思った気持ちはとてもリアルなものであり、誰もが透子や祥示のように孤独や人に言えない悩みを抱えているものではないでしょうか。それだけに二人の心理描写が心に突き刺さり、不穏な先行きから目が離せなくなります。

原作の山田佳奈さんは、舞台演出家、脚本家、映画監督、小説家とマルチに活躍し、劇団「□字ック」の主宰でもあります。山田さんにとって本作が初の漫画原作ですが、「□字ック」第十二回本公演「滅びの国」がベースになっています。単行本1巻が8月23日に発売されるタイミングで、原作舞台「滅びの国」も期間限定で配信決定(9月1日まで)。舞台と漫画の表現の違いを見比べてみるのも面白そう。

□字ック 第十二回本公演「滅びの国」ダイジェスト映像

 

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著者プロフィール
山田佳奈(やまだ・かな)

舞台演出家・脚本家・映画監督・小説家。
レコード会社のプロモーターを経て、2010年に劇団「□字ック」を旗揚げ。
『都合のいい果て』で初の漫画原作を手掛ける。
脚本を手掛けた作品に『全裸監督』『タイトル、拒絶』など。

志水アキ(しみず・あき)
漫画家。『夜刀の神つかい』(幻冬舎コミックス)でデビューし、『幻想水滸伝Ⅲ ~運命の継承者~』(KADOKAWA)『トータスデリバリー』(講談社)など著作多数。
京極夏彦の原作『百鬼夜行シリーズ』 のコミカライズはライフワークとなっている。
『都合のいい果て』で「モーニング・ツー」初登場。

 

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『都合のいい果て』
劇作:山田佳奈 漫画:志水アキ 講談社

この日私は、女性用風俗で男を買った。
専業主婦の透子はある日、夫の渉が不倫していることを知ってしまう。
どうしようもない渇きを癒すため、縋ったのは女性用風俗で買った青年・祥示だった。
祥示との関係に溺れていく透子だったが、夢のような時間はそう長くは続かず——。
気鋭の劇作家・山田佳奈と、感情描写の名手・志水アキの初タッグ!

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