自分のことより、夫や子どもの好きなものをまず選んでしまう。そんな日々を過ごしてきた女性がおばあちゃんになってから、自分の中の「楽しい」を掘り起こした。8月23日に1巻が発売になった『はなものがたり』はTwitterで「美容に目覚めるおばあちゃんの物語」として話題になりました。

『はなものがたり』1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

長年連れ添った夫が亡くなり、四十九日の法要を終えた西田はな代。久しぶりに一人きりで街を歩いていると、通りすがりの商店街の化粧品店に、自分と同年代の美しい女性店員が立っているのを見つけます。

 

すっぴんのままで適当な服を着ている自分に恥ずかしくなっているとその店員に声をかけられ、メイクしてもらうことに。ちょっとの手数で華やかになった顔に驚くはな代。

 

人生をながく生きるほど手数を減らしても映える。顔を「物語」にたとえた表現が素敵です。最後にリップをつける時「綺麗なピンク色 スイートピーみたいでしょ お似合いなると思います」と笑顔で紹介する店員に、
 

 

いやあ…… うちがそんな色……
みっともないって言われそうで……


と恥ずかしげに、メイクをしていなかった理由を語ると店員が豹変しました。

 

自分の代わりに怒りをあらわにしてくれる様子が、おかしくて嬉しくて、つい笑ってしまうはな代。心まで少し色づいたのかもしれません。

メイクをしなくなったのはいつからだろう。子育てをする傍らで見ていたワイドショーや、化粧品売り場での息子や夫の言葉が蘇ります。

 

お化粧って楽しいんだ。もうびくびくしないで毎日自分の楽しいことをして過ごそう。メイクと店員・堂島芳子の魅力にはまっていき、自分の人生を取り戻してゆくはな代の姿が描かれます。

本作では、世間であまり語られてこなかったけれど、女性たちが密かに感じてきた感覚が多く描かれています。

その一つが、ちょっと新しいことをしようとすると夫に足を引っ張られている気がするという感覚。

メイクの楽しみという新しい世界を知った彼女ですが、亡くなった夫を忘れたわけではありません。ことあるごとに彼の幻影が現れて語りかけてきて、彼女を昔に引き戻そうとします。

たとえば、奥さん仲間と久しぶりに会う前、オシャレをしていると若い頃の夫が出てきてこう言います。

 

ほかにも「ばあさんが何塗ったかてばあさんやろ アホらし」なと、昔は素直に受け入れていたり聞き流していた夫の言葉も、一人になった今なら思いっきり舌を出して拒否できるのです。

また、女性ファッション誌に感じる「自分向けのものがない」という感覚も語られてこなかったものです。若い人向けのものが多い中、34歳にしか見えない54歳エステサロン経営者に衝撃を受け、シニア女性向けの雑誌を手に取るはな代ですが、どれもピンときません。

 

あと、メイクは女性なら必ずしなければいけないものではなく、楽しいなと思う人がするのがいいんじゃないかという感覚。独身でかつては出版社の編集者だった芳子がメイクについての理想をぽろっと話すシーンです。

 

女性の生き方とメイクは、社会から既定路線を決められてきたという点が似ています。結婚や清楚なメイクは一定の年齢になったらするのが当たり前。でも、恋愛や派手な色使いは年齢を経るとやってはいけないと言われてきました。

本作で個人的にじわっと感動したのは、子どもの自分が現れて、夫や子ども・義実家の両親の好きなものだらけの中、一番下に埋もれたレトロな宝箱を見つける心象風景のシーン。その宝箱を開けると昭和時代のお化粧品が入っているんです。きっと、子どもの頃にときめき憧れていたものなのでしょう。年月とともに埋もれて忘れてしまっていたけれど、幼き頃の憧れやときめきは無くしたわけではなかった。ただ見えなくなっていただけだったんですよね。
女という名の花が心の中にふわっと咲くような気持ちになれる作品です。

 

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『はなものがたり』
schwinn (著)

Twitterで話題になった「美容に目覚めるおばあちゃんの百合漫画」が連載化!
長年連れ添った夫が亡くなった。ひとりになった毎日を彩り豊かな日々にできるのは、自分だけ――。
 

作者プロフィール
Schwinn

Twitterに投稿した「美容に目覚めるおばあちゃんの百合漫画」が話題になり、月刊コミックフラッパーで「はなものがたり」として連載中。
コミックス第1巻が8月23日(火)発売。
Twitterアカウント:@schwinn_draw



(C)Schwinn/KADOKAWA
構成/大槻由実子
編集/坂口彩