人類を喰らう巨人が世界を支配し、生き延びた人類が巨大な壁の中で自由と引き換えに暮らしを守っているという世界を、その大きな謎とともに描き切った『進撃の巨人』(諫山創)が完結したのは、昨年4月のこと。最近、ポスト「進撃の巨人」と話題になっている作品があります。その名は『菌と鉄』。昨年3月から別冊少年マガジンで連載が始まり、単行本は2巻まで出ているのですが、1巻は発売から5刷という異例の売れ行きを達成。1話ごとに先の読めない展開で、確かにこれはハマる!

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『菌と鉄』(1) (講談社コミックス)


塀の外も青空は続くのか? 一人の少年の小さな疑問。


『菌と鉄』の舞台は、「アミガサ」という名の世界政府によって人類が支配された、徹底的な管理社会。エリアと呼ばれる、高い塀に囲まれた施設で兵士として養成され、一生を過ごすのですが、生まれた時からそれが当たり前の環境なため、疑問を持つ者はいません。ただ一人、ダンテという青年をのぞいては。彼は首に狼のような痣を持ち、字を正しく認識できない失読症という症状を抱えていました。

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毎日提供される、決まった食事の味に不満を持ち、「アミガサ」の敵の写真に向かって怒りをぶつける「怒りの時間」でも、周囲の兵士が怒り狂っているのを横目に、「俺 全然知らねーオッサンなんだけどな〜」と笑いを堪える始末。おかげで周囲から浮きまくり、「危険思想」の持ち主として、厳罰を受けるのが日常茶飯事でした。いっそ処刑されてもおかしくなかったのですが、彼の言動は失語症のせいであり、身体能力がずば抜けて高かったことから殺されずにいたのです。

 

ある日、ダンテを含む数十名が集められ、「極秘任務」を言い渡されます。ダンテたちのいるエリアD-18の周辺に各地でテロ行為を繰り返し、「アミガサ」最大の敵といわれている反乱組織「エーテル」一派が潜入しており、撃滅作戦を実行するというのです。全員に緊張が走りましたが、ただ一人、ダンテはエリアの外に出られるということで、内心ワクワクした気持ちが抑えられませんでした。

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生まれてはじめて見た、エリアの外に広がる世界。


いよいよ作戦決行の日。エリアの重い扉が開かれ、生まれてはじめてエリアの外に足を踏み出します。周囲の兵士は敵である「エーテル」を殲滅すべく殺気立っていましたが、ダンテは塀の外でも続いている青空や、初めて見る光景に心を奪われていました。

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この世界では、キノコ類が食物連鎖の頂点にあり、ありとあらゆるものがキノコ類に埋め尽くされていました。銃を構えたままキノコ類の森を進軍するダンテたち。ダンテは見るものすべてが新鮮で楽しく、テンション爆上がりでバディの兵士に「エリアの外ってホントにスゲェな!!」「『エーテル』の奴らはいっつも外ウロついてんのかな」などと話しかけまくっていました。しかし、兵としてエリア内で訓練し、「エーテル」を倒すことだけを考えてきたバディの兵士は、初めて見る外の景色やダンテの“反逆的”な言動に耐えられず、銃で自分の頭を撃ち抜いてしまいます。突然のことに唖然とするダンテでしたが、上官は「外に出るとたまにこうなる奴がいる」と流し、そのまま敵を追い詰めるために前進しろと命令します。

銃を構えて敵を崖まで追い詰めるダンテたち。しかし、攻撃はせずに待機を命じられ、「あとはアミガサのみぞ知るだ」と上官。しばらくすると、崖が崩れ始め、下にいた敵たちは岩の下敷きになって全滅します。「アミガサ」の神がかった圧倒的な力に背筋を凍らせるダンテ。その瞬間、足元の岩場が地割れを起こし、D-18の部隊全員がその裂け目に飲み込まれていきました。しかし、身体能力が高いダンテは崩れ行く岩場を駆け上がり、ただ一人、生き残ります。

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たった一人、生き延びたダンテが少女と出会う。


裂け目を登りきったダンテは、フードを深く被った「エーテル」の一員に銃口を向けられます。殺されることを覚悟したダンテは、どうせ任務終了後に部隊もろとも死ぬはずだったのだからと、撃たれる前に一時間でもいいから外を歩きたいと申し出ます。そのことを聞いたエーテルの一員は、「殺さない 殺したら『アミガサ』と同じになるから」と銃を下ろします。銃を構えていたのは少女でした。少女はダンテの手を取り、洞窟に逃げ込みます。

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少女はアオイと名乗り、「女性区」から来たと話します。「アミガサ」管理下の社会では男女が別々に暮らしていたため、ダンテは異性と対面するのが初めてのこと。ダンテはドキドキしながらも、なぜ「アミガサ」が「エーテル」と戦っているのか? 憎むように命令されているものの、一度も会ったことがない相手を憎むことができない、といった日頃疑問に思っていることをアオイにぶつけます。「女性区」で同じように管理されているアオイは、死ぬまで同じエリアで何の疑問も感じないまま自由な会話も許されないなんておかしい! と力説。失読症の自分がおかしいのかもと思っていたダンテにとっては目からウロコの状態で、目が覚めたような思いをしました。

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その後、いろんなことを話し合い、笑い合ったアオイとダンテ。しかし、外で激しく降っていた雨は小雨となり、二人に別れの時が訪れます。最後に二人は「生きてまた必ず会おう」と誓います。

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再び一人になったダンテ。エリアでの生活に常に違和感を抱いていたものの、エリア外での出来事と、アオイとの出会いを経て、何も知らなかった自分にはもう戻れないし、戻りたくないことを自覚します。そして彼は、ひとりエリアD-18に帰還します。アミガサ総督のグラントは彼を「処置室」に連行し、「なぜ生きてる!?」「貴様が生きていることがアミガサへの侮辱だ!!」とひどい拷問を行いましたが、ダンテが屈することはありませんでした。見かねたグラントは、ダンテの脳に巨大なアミガサタケを植え付けようとします。実はすべての人類の脳には既にアミガサタケが寄生しており、それが脳をコントロールし、「アミガサ」を絶対視させ、疑いを持たないようにしていたのです。脳に巨大なアミガサタケが侵食し、アミガサにすべてを支配されそうになった瞬間、ダンテの頭をよぎったのは、アオイと過ごした時間のこと。

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アミガサの精神的な侵食をはねのけ、「生きてもう一度あの子に会う」「アミガサの世界じゃ会えないっつーんなら 俺が世界をぶっ壊してやる」とグランテに言い放ちます。

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アミガサ総督に喧嘩を売ったダンテの運命は? その先は試し読み第1話でぜひ確かめてほしい!!
 

ディストピア的世界観は、漫画の中だけじゃない。


菌類が全てを覆い尽くした世界で、人類を徹底的に管理する世界政府「アミガサ」や、反乱組織「エーテル」とは何なのか? といったディストピア的世界観と散りばめられた謎はもちろん気になるのだけど、いとも簡単に殺されるコマの一つに過ぎなかったダンテという小さな“バグ”によって、神のように完璧であるはずの「アミガサ」に予測不可能な狂いが生じていく過程にグイグイと引き込まれていきます。また、自由がなく、自分の感情もないことにされるこの世界では、ダンテは異端もいいところで、周囲からはバカ扱いされているものの、その曇りなき純粋さが逆に大きな力へと変わっていきます。彼の屈託のなさが閉塞的な世界の光となり、彼自身もまた、少しずつ自分自身で考え、成長していくことになります。

本作が描いているのは架空の世界ではありますが、徹底的に管理され、それが当たり前と思い込み、いつしか自ら考えることをしなくなるといった状況は現実世界にもあること。だからこそ、物語がリアルさを帯び、ダンテたちが小さな希望を糧に、自由を渇望して行動するさまは読み手の胸に迫り、心を強く揺さぶってきます。

作者の片山あやか先生は『進撃の巨人』の諫山創先生のもとでのアシスタント経験があり、諫山先生自身もこの作品を絶賛していることから、ポスト『進撃の巨人』との呼び名が高いのは事実です。「あの『進撃の巨人の』!」という枕詞は、本作を手に取るきっかけに過ぎず、この作品自体の面白さは本物。2022年11月発売の3巻では、なぜ菌類が世界を覆い尽くすことになったのかという過去も明らかになるので、見逃せません。とにかく今のうちに読んどけ! という個人的にもいま最もイチオシの作品です。

 


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『菌と鉄』
片山あやか 講談社

その星は、徹底した管理社会だった。人類は菌類に支配され、あらゆる自由を奪われた。"イレギュラー"――最強の兵士・ダンテは、ひとりの少女との出会いをきっかけに、この世界の理を覆す決意をした。――かくして少年は、星に背く。また君に会うために。
 

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