デジタルスクリーン症候群は脳内の血流と深い関係が
ダンクリー博士は、デジタルスクリーン症候群は本質的にストレス症候群であるため、ストレスの子どもへの影響を調べることで、デジタルスクリーン症候群のメカニズムを解明できると説いています。
そこで注目したいのが、以下に示した「ストレスによって引き起こされる生物学的、社会学的、社会的な機能不全の概要」の図。デジタルスクリーン症候群においても、同じような結果になるそうです。
では、なぜストレスは問題行動を引き起こしてしまうのか。ダンクリー博士はこのように説明しています。
「ストレスを受けると、脳内の血流は、思考力の高い領域(一番外側にある大脳皮質、つまり『新しい』脳)から、より原始的な領域(奥深くにある大脳辺縁系、つまり『古い』脳)へと繰り返し誘導される。言い換えれば、生存に関わる領域に血液が送られるのだ。思春期に何らかの依存症に陥ると、脳の前頭葉の発達が阻害される。前頭葉は、意思決定、組織化、注意、衝動制御、作業の完了、感情の制御など(まだまだある!)の機能を担っている。双方向スクリーンに関わる時間が、ストレス反応を引き起こし、報酬や依存症の経路を活性化するとしたらどうだろう。大脳皮質や前頭葉への血流が減少し、脳の発達に影響を与えるのではないだろうか?」
つまり、デジタルスクリーンによってストレスを受けると、注意や衝動制御をつかさどる前頭葉の発達が阻害されるため、一般社会では問題とされる行動を取ってしまうのです。
ストレスから解放されると、脳は飛躍的に成長する
といっても悲観的になることはありません。ダンクリー博士は、前頭葉の発達を正常化するリセットプログラムを編み出し、しっかりと効果を得ていました。
「私がリセットプログラムで治療した患者は、その後もスクリーンを使わない生活を続けていると、数か月のうちに飛躍的に成長・発達している。これは、スクリーンから解放されたことで、前頭葉にしっかりとした血流が戻り、健全な脳の発達をサポートしているからだと考えられる」
リセットプログラムの具体的な内容をはじめ、本書にはデジタルスクリーン症候群を克服するうえで有益な情報がたくさん紹介されていますので、気になる方はぜひ手に取ってみてください!
著者プロフィール
ヴィクトリア・L・ダンクリーさん
米国の精神科医・医学博士。特に小児対象の統合的な精神医学の実践で定評があり、過去10 年間で、通常の治療法で効果が見られなかった子どもたち数百人を救っている。デジタルスクリーン、環境要因、食事療法、投薬が行動に及ぼす影響の研究で受賞歴多数。特にデジタルスクリーンについては、米国ベストセラーとなった本書で、子どもの気分・睡眠・認知・行動の問題を引き起こし、小児性肥満症の要因になっていると述べている。メンタルヘルス専門家として、NBC『トゥデイ』『ナイトリー・ニュース』などにも出演。
監修者プロフィール
川島 隆太(かわしま りゅうた)さん
東北大学加齢医学研究所所長・医学博士。1959 年生まれ。東北大学医学部卒。同大学大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員。東北大学加齢医学研究所では7 万人以上の子どもの脳と認知機能の発達を10 年間追跡調査した。そこから特にスマホを使った場合に学力が大幅に下がることを発見、スマホが子どもの脳に与える深刻な影響に警鐘を鳴らしている。
『子どものデジタル脳 完全回復プログラム』著者:ヴィクトリア・L・ダンクリー 飛鳥新社 1980円(税込)
200を超える精神医学、心理学の文献と数百の臨床事例をもとに、デジタル機器が子どもの脳に与える影響と、そこから引き起こされる症状を解説。さらに、症状の克服法などもていねいにレクチャーします。子育て中の人はもちろん、それ以外の人にとっても興味深い事実がつづられた、現代生活を送るうえでとてもためになる一冊です。
構成/さくま健太
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