小さい頃からクリリンになりたかった。クリリンの何がすごいのか。それは、戦闘力のインフレが進む中、なんだかんだで天津飯を押しのけ「地球人としては最強」というポジションにおさまったことでも、「チビのオッサン」と言われながらも最終的にはちゃっかり18号を射止めたことでもありません。

あの悟空のいちばんの親友でいられたことです。もっと言うと、人間関係についておそろしく淡白な悟空に対し、みっともなく縋ることも、たらたら不満をぶつけることもなく、その薄情さをあっさり受け入れた上で、親友として泰然自若と構える。その無我の境地に近いクリリンのメンタリティが羨ましくてしょうがなかった。

だいたい悟空という人間はかなり友達甲斐のない人間です。誰からも愛され、すぐ人と仲良くなれる人なつっこさを持ちながら、過剰に馴れ合うことはせず、関心は常にどれだけ強くなれるかのみ。三度の飯より修行が好き。でも三度の飯もかなり好きな人間なので、不等号で並べてみるなら、「修業>>三度の飯>>>>>>>>>>>>>>友達」みたいな感じ。もうね、優先順位がめちゃくちゃ低い。

ちなみにここに本来は家族も入るわけですが、悟空に関しては家族も友達も正直思い入れのなさで言うと、どっこいどっこい。「修業>>三度の飯>>>>>>>>>>>>>>家族=友達」と見ていいでしょう。何なら「修業>>三度の飯>>>>>>>>>>>>>>家族=友達=天下一武道会の司会の人」と言ってもいい。みんなまとめて「よお、久しぶりだなー」ですませちゃう。同窓会とか絶対出席しないタイプ。

思えば、幼少期からその片鱗はありました。あれはレッドリボン軍を壊滅したあとのこと。ウパの父をドラゴンボールで生き返らせた悟空は、次の天下一武道会までの3年間、ひとり修行の旅に出ることに。「ながいあいだあえないな」と寂しがるクリリンに悟空は「元気でなクリリン!」とあっさり。もしこの世界にLINEとかあっても、悟空はずっと未読スルーだと思う。

 

このとき悟空は13歳。クリリンは14歳です。なにぶん遊びたいざかりのお年頃。いろいろ恋バナだってしたいじゃないですか。だけど、悟空はそんな青春らしい戯れに見向きもしない。きっと悟空は知らないのです。いつもニコイチで行動している友達が学校を休んだ日の昼休みの気まずさを。今さらどこかのグループに入れてもらうわけにもいかず、ひとり机でパンを食むみじめさにも耐えられず、そっと教室を抜け出して、非常階段あたりで時間を潰すあの無為なひとときを。たぶん悟空、卒業のときにサイン帳とか渡しても書かずにほったらかしだと思う。

 

決定的なのは、最終回です。久々に悟空に会いに来たブルマは「あんたほっとくと永久に会いに来ないんじゃないの!?」とおかんむり。けれど、悟空は「5年くらい前に会ったばっかじゃねえか」と涼しい顔です。このとき、悟空たちはだいたい50代に差しかかる頃。そろそろいい感じに年をとって、昔話が恋しくなる時期じゃないですか。「あのときは××だったよな〜」と飲み会のたびに同じ思い出話を繰り返し、同じタイミングで大爆笑する。若い頃にはみっともないと思っていたそんな行為が無性に心地良くなる年頃です。

が、当然悟空にそんな情緒はない。もうオラたちもいい年だし、いつ何があるかわかんねえから会えるときに会っとかねえとなみたいな切迫感もない。僕がクリリンだったら普通に思う。ねえ、俺たち本当に親友……? って。

ここが悟空のズルいところで、人に執着がないならないで、変な優しさとか見せなきゃいいんですよ。でも、悟空ははっきりとクリリンに対しては特別扱いをするのです。最初にクリリンがタンバリンに殺されたときもそう。亀仙人の制止も聞かず、悟空は飛び出していった。あんなに怒りに震える悟空を見たのは、あれが初めてでした。