高齢者にとって転倒はどれだけ危険?


自宅で暮らす65歳以上の約2割、施設入居では3割以上が1年間に転倒すると報告されています。さらに女性は、男性より転倒する率が高いというデータも。高齢者は、筋力の衰え、バランス感覚の低下、視力や視認性の低下、病気や薬の副作用によるふらつきが原因で、転倒に至ってしまうのです。

今回相談に訪れた純子さんの母親は、甲回りだけで足を固定するつっかけタイプを履いていたとのこと。東京都生活文化局が行ったヒヤリ・ハット調査では、履物を着用していたことによるシニアの転倒原因の中で最も多いのが、このつっかけとなっています。

うまく歩けないと感じるときは、脳血管疾患、パーキンソン病、筋力の低下など、身体に原因があることも多いですが、履物が影響していることも。内閣府の令和3年版高齢社会白書によると、介護が必要になった主な原因は「認知症」が18.1%と最も多く、次いで「脳血管疾患(脳卒中)」15.0%、「高齢による衰弱」13.3%、「骨折・転倒」は13.0%で第4位です。上位3つは予防にも限界がありますが、転倒に関しては、履物に意識を向けることで多少なりとも防止策を立てることができます。

足を固定できない履物は、地面を正しく蹴りながら歩行できません。つま先が上がらず地面をするようになり、歩幅も狭くなるため結果的に転びやすくなります。特徴としては、前傾姿勢、歩幅の短縮、足の挙上の低下、すり足歩行が挙げられます。

 

介護靴の特徴
 

「スットフィット」両足¥3520、片足¥1760/徳武産業株式会社

介護靴と呼ばれるものは、軽くて柔らかい素材で履き口が大きく、楽に履けるようにマジックテープやファスナーといったさまざまな工夫が施されています。中でも徳武産業株式会社のあゆみシリーズは有名で、品揃えも豊富。カラフルな色や柄も選べます。むくみや装具装着があっても履きやすい幅広タイプの靴もあり、高齢者が転倒しにくい靴としてはオススメです。

他にもアサヒシューズマリアンヌなど、日本転倒予防学会が推奨するアイテムがこちらのサイトでご覧いただけます。

「快歩主義 L011」¥6490/アサヒシューズ株式会社



スポーツメーカーのオススメ転倒防止靴


個人的には、何とか歩ける段階であれば、介護靴にこだわらなくても良いと思います。私(渋澤)の義母は要介護3で車椅子と杖、義父は特に介護認定を受けていないものの体は衰えていて、そんな状態でも介護靴には抵抗があるようです(デイサービスなどの介護事業所用の内履きは介護靴を利用)。そこで介護靴以外のオススメ靴もご紹介しましょう。

「LD40 Ⅵ」¥15400/ミズノ株式会社

転倒防止には、足をしっかり固定することが大切なので、スニーカーはオススメです。私が良いと感じているのは、ニューバランスミズノアシックスの3社。先日も義父母と一緒にいろいろな靴店を見る中で、ニューバランスが一番しっくりきたので購入に至りました。

ニューバランスは、足のサイズや幅に合わせた種類が豊富で、色も多く揃っています。紐付き、紐なしなども選べ、身体に合った1足を見つけることができました。ちなみに、ニューバランスは医療用シューズも販売しています。白が中心ですが、ナースが長時間仕事をしても疲れない工夫が施されており、高齢者がこれを普段使いするのも個人的にはありだと思っています。

同じスポーツ系の靴でも、若い人に人気のナイキは幅が狭いので足が痛くなってしまったり、コンバースのバッシュは素材が硬すぎて不向きかもしれません。その点ニューバランスは、紐がついているタイプでもゆったり履けるのでオススメです。他にも、アシックスのライフウォーカーシリーズなどは、ウォーキングに最適。つま先が少し上を向いたものだと転倒しにくいです。


靴探しはシューフィッターも活用して

どの靴がフィットするのか分からない場合は、シューフィッターに相談してみてはいかがでしょうか。シューフィッターとは、足の疾病予防の観点から正しく合った靴を提案してくれる専門家のこと。「一般社団法人 足と靴と健康協議会」が養成・認定し、2022年8月時点で3605名が認定されています。足と靴と健康協議会の公式サイトでは、シューフィッターの在籍店舗を検索できるので、靴のトラブルでお悩みの方も一度相談してみると良いかもしれません。


高齢者の靴選びにおいて大切なこと

高齢者の靴選びにおいて大切なことは、たとえ要介護認定されても年寄り扱いせず、状況に応じて靴を選ぶこと。たとえば介護用の靴は年寄りっぽいからと親が敬遠しているのに、自立歩行ができるうちからプレゼントしても履いてくれないかもしれません。それならデザインも機能も充実したスニーカーの方が良い場合もあります。反面、介護度が高くなって足がむくんできたり、介護事業所などを利用する際は、職員の方や本人が着脱しやすいという視点で選ぶことも大切です。

介護靴は、脱ぎ履きがしやすく、足を固定できるのが特徴です。履き口が広く柔らかな素材のため、曲げやすく、かかと部分の輪は引っ張るだけで簡単に履けるものもあります。また、左右違うサイズや片足のみの購入ができる点もポイントです。

ぜひこれらを参考に、利便性とファッション性を兼ね備えた1足を選んでみてください。ご高齢の方はコレと決めるとずっと履き続けるところがあるので、流行りだけを追わないメーカーの方針など、長くお付き合いできるメーカーを選んでおくと良いのではないでしょうか。


写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 

 


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