新米父の、突飛な行動に、妻は!?


「予想したよりも、アンソニーはずっといいお父さんでした。もしかして、産後でホルモンバランスが狂ってメンタルが安定しなかった私よりもいい親だったかもしれません。私はなんでも自分で思い通りに決めていきたいタイプの人間なので、新生児育児に予想以上に振り回されてしまいました。

今思うと産後うつだったのかもしれません。『万が一赤ちゃんを死なせてしまったらどうしよう』という緊張感とプレッシャーが強く、可愛いがるというよりも必死の日々。一方アンソニーは最初からとても赤ちゃんを可愛がっていて、『ああ、ようやく私たちは本当の家族になったんだ、足りないところを埋め合えている』と思いました」

ところが、父性に目覚めたアンソニーさんは、突如として「もっと給料のいい会社に転職して、娘にいい生活をさせてやりたい」と言い、実際に3ヵ月後に転職活動を成功させます。

しかし、実は冴子さんはそれを手放しで応援していたわけではないのだと言います。 

 

「アンソニーの気持ちは嬉しかったけれど……それよりも今は慣れた会社で仕事を続けて、その中で家事育児を手伝ってほしい気持ちがありました。アンソニーは器用じゃないので、転職すれば環境に慣れるためにいっぱいいっぱいになることは目に見えていました」

 

冴子さんの危惧は的中。アンソニーさんが少し高い給与に釣られて移った会社は、いわゆるブラック企業。残業も休日出勤もザラになってしまったのです。

双方の両親や友人を頼れない状況で、夫婦2人で力を合わせて初の育児に取り組むべき場面でしたが、それぞれが別の課題と組みあう事態になってしまいました。

そしてある日、冴子さんは「見てはいけないもの」を見てしまいます。