「育休は、あんたの世話をする休みじゃない」


「一言で言うと、あの人は『中身が何もない』人なんです。意思がない。思いやりがない。人への関心もない。人として、ちょっと欠落してる部分があると思います」

麻里さんがご主人について語るとき、その口調はまるで他人のことを話しているよう。怒りや憎しみ、失望をある程度超えると、女性は自分の世界から相手を排除するのかもしれません。

けれど少なくとも、出会った当初は結婚するだけの情熱があったはず。最初はどこが好きだったのか? どうして結婚したのか? そう聞くと、麻里さんは首を傾げながらしばらく黙り込んでしまいました。

「何でしょう……どこが好きだったのか、本当に思い出せない。すみません。でも敢えて言うなら……夫の方が結婚願望が強く、付き合った当初から結婚前提と言われていたからでしょうか。あと、それまではお金持ちな人や、業界人ぽい派手な人と付き合うことが多かったので、よく言えば落ち着いた雰囲気で堅実な彼と出会って“結婚するならこういうタイプが正解なのかな”と思った気がします」

2人は友人の紹介で出会い、ご主人の強いアプローチを受けて交際をスタート、その数ヵ月後に結婚しました。けれど、当時ご主人は地方に転勤しており、結婚するまで遠距離恋愛だったそうです。

「結婚前にも、ちょっとした違和感はありました。たまに話が通じないところや、2人でいてもいまいち楽しくなかったり。でもずっと遠距離だったので、その違和感に目を瞑ってしまったんです。

ただ、彼の『中身のなさ』は無意識にわかっていたのかも。結婚前や出産前は友達を交えて遊んでばかりいましたから。夫は私がどこかに連れて行くと無難に溶け込むことはできるんですけど、2人でいてもつまらなかったんだと思います」

麻里さんは明るく社交的で、友人も多く、イベントや旅行なども積極的に企画して楽しむタイプ。そんな彼女に黙ってついていく穏やかな彼ならば、一見は相性が良さそうに思えます。

けれど、この男女の“ちょっとした違和感”は、時間をかけて、そして夫婦の場合は特に出産後に致命的な問題となるパターンが多いのです。 

 

「息子が産まれてから、私の生活は一変しました。これまで自分中心で生きて来た人生が、否応なく赤ちゃん中心の生活になります。もちろん息子は可愛いけれど、慣れないお世話に振り回されて産休育休中は1日をこなすだけで精一杯。

でも、夫は何も変わりませんでした。息子を可愛がりはするものの、私の大変さには全く無関心なんです。何か頼むと『俺は仕事があるから』と平然と逃げていく。それどころか、家にいる私に対して横柄な態度をとるようになりました」

ーー家、汚れてない? 掃除してないの?
ーーあれ? なんで俺のクリーニング出してないの?
ーーメシ、手抜きだね。ずっと家にいたのに、1日何してたの? 

ご主人は、こうしたセリフを日常的に口にするようになったそう。乳児を世話する母親にとって、まさに地雷と言えます。

 

「ちなみにうちの家計はほぼ半々で、お互いが共通口座にお給料を入れて、決まった額のお小遣いを使っています。私は育休中も変わらない額も入れていたのに、『家にいる』というだけで見下されるようになったんです。

私も黙っているタイプではないので、喧嘩が増えました。『育休はあんたの世話をする休みじゃないんだよ!』と怒鳴ったり。まるで鬼です。自分が鬼みたいな女になるなんて、信じられなかった」

そして麻里さんの育休が明け、フルタイムで職場に復帰してから、夫婦関係はさらに悪化していったのです。