これまでも国際映画祭で高い評価を獲得してきた三宅唱監督。その新作『ケイコ 目を澄ませて』は、オスカーを獲得した『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督ですら「三宅唱になんとかついていきたい」と絶賛します。「逆ですから! ついていくのは僕ですから!」と少し照れる三宅監督ですが、今年2月のベルリン映画祭に続き、上映された釜山国際映画祭でもその評判は上々です。

三宅唱さん(以下、三宅):チケットもすぐに売り切れたと聞いています。上映中の時間は、研ぎ澄まされていて、集中してご覧いただけているなと感じました。幸福な時間でしたね。

岸井ゆきのさん(以下、岸井):初めて観客の皆さんと一緒に見たんですが、「ここで笑うんだ」という反応も一緒に体感することができてすごく嬉しかったです。

三宅:ケイコとジムの会長のちょっとしたやりとりなど、みなさんが笑顔で楽しんでくれて。現場の自分たちと同じで、伝わってよかったなって思いました。

【岸井ゆきの×監督・三宅唱】「手加減しないで」ボクシング初心者の二人が「ろう」の女性ボクサーを描くまで【映画『ケイコ 目を澄ませて』】_img0

 

主演の岸井ゆきのさんが演じるのは、主人公のケイコは生まれながらの「ろう者」で、プロになったばかりの女性ボクサーです。その静かな世界の格闘を観客の心に響かせるのは、演出家にとっても演じる役者にとっても勇気が必要で、多くの困難があったはず。

 

岸井:監督が決まり、練習が始まって、ようやく覚悟が決まったというか。準備期間は毎日ボクシングの練習をしていたんですが、トレーナーの松浦慎一郎さんと監督がずっと一緒にやってくれたんですよね。

三宅:週に3~5回で三ヵ月間、ジムに行ってましたね。

岸井:そんな話、他では聞いたことなかったし、「この人たちと一緒なら成し遂げられるかも」と。

三宅:僕としては、ごく当然のことで。ボクシングをぜんぜん知らなかったから、まずは身体を動かしてみたかったんですよね。でもやってみたらすごく楽しくて、単純に上手くなりたいなと。本来は「岸井さん、今どんな状態かな?」とか「どう撮ろうかな?」などと考えるべきかもしれませんが、そうすると全然上手くならないので、練習中はボクシングに集中して。でも終わった後も、身体の重心移動のコツとか、ボクシングの技術的な話ばっかりしてましたね。

岸井:ボクシング仲間、っていう感じで。撮影の前日もやってたし、大晦日には撮影監督まできて一緒にボクシングしてましたよね。

三宅:終わったらそのままロケハンにいって。こんな関わり方ができる作品もあるんだなあと思いましたね。