増え続ける小型のフライパンや片手鍋による「やけど被害」
独立行政法人国民生活センターには、2016年4月から2021年5月の5年間で、フライパンや片手鍋の落下による危害・危険事例が129件寄せられています。今回の相談者・さやかさんのお母様のように、小型のフライパンや片手鍋がガスコンロの上で傾き、やけどをする事故が相次いでいるとして注意を呼びかけています。
2008年10月以降に製造・輸入されたガスコンロには、「調理油過熱防止装置」という突起が五徳の中央に設置されています。これはセンサーが鍋底の温度を感知し、250度になったら自動的に消火する装置ですが、この装置が鍋底を押し上げることによって、ガスコンロから鍋類が落下してしまうことがあるのです。特に小型のフライパンや片手鍋は軽量のものが多く、長くて重い持ち手とのバランスが取りづらいため注意が必要です。
小型の調理器具を用いた事故が増加している背景には、高齢者の単独世帯が増えたことが挙げられます。また、コロナ禍で自炊が増えたことで、それまで自炊をあまりしなかった一人暮らし世帯が小型の調理器具を使用する機会が増え、事故につながったことも考えられます。129件という数字は消費生活に関する相談情報の件数なので、実際にはもっと多くの事故が発生しているはずです。
小型のフライパンや片手鍋による事故原因
国民生活センターの報告書には、多くの事例が紹介されています。ここでいくつか紹介しましょう。
ケース① 調理器具の安定性が悪い
内径18cmのフライパンの安定が悪く、ガスコンロに乗せると手前に傾く。揚げ物をしているときにも傾き、油がかかってやけどを負った。
ケース② 取っ手が炎で焼損
調理中の炎がフライパンの取っ手に当たりやすく、取っ手を固定している樹脂部が劣化。最終的には取っ手が外れ、調理したものが足の上に落ちてやけどを負った。
ケース③ 取っ手内部のネジが腐食して破損
8年前に購入した片手鍋の取っ手の心棒がサビついて折れ、片手鍋を持ち上げたときに料理がひっくり返って危うくやけどを負うところだった。
基本的な事故防止策は?
事例を挙げればキリがありません。では、事故を防ぐには具体的にどのような対策を取れば良いのでしょうか。
① 取扱説明書をよく読む
小径のフライパンや片手鍋の中には、調理油過熱防止装置が備わったガスコンロでは使用不可、揚げ物では使用禁止、そのほか調理油の下限量が決められている商品などもあります。注意表示はきちんと確認しましょう。
② 本体に貼付された注意表示も確認する
調理器具本体には、取っ手の焼損、取っ手のネジ等の腐食に関する注意表示もあります。また、取っ手を水に浸けたまま放置すると、ネジがサビたり取っ手が破損する原因になるので要注意です。
③ 五徳のツメの向きや位置に注意して調理器具を載せる
小径の調理器具をガスコンロで使用する際には、調理油過熱防止装置の影響で傾くことがあります。取っ手を持ちながら注意して調理しましょう。
④ ガスコンロの火力に注意する
火力が強いと鍋の取っ手に炎が直接当たりやすくなり、取っ手の樹脂部が焼損する恐れがあります。
⑤ 取っ手のネジをチェックする
取っ手の先端部から根元部分まで貫通する長いネジで留められているものは、取っ手内部に水が残るとネジが腐食して破損する恐れがあります。洗った後は十分に水を切りましょう。また、取っ手を留めているネジが緩んでいたら締め直してください。
年老いた親の安全を守るために
危険なのは、ガスコンロにおける事故だけではありません。火の元が心配だからと、親のためにガスからIHクッキングヒーターに替えた家庭がありました。同時にIH対応の調理器具を導入しましたが、ある日鍋が急にガタガタと動き始めたとのこと。要は勝手に位置がずれ始めたのです。急いで火を止めましたが、そのままにしておいたら下に落ちていたかもしれません。
その方は、本体に小さく「中火以上で使わないでください」という注意書きがあったのを見落としていました。高齢者は家族が揃えてくれたものはほぼ信じて使いますし、このような注意書きはまず読みません。年老いた親だけで暮らすようになると、火事の心配もあって早めに対策を取る子どもも多いでしょう。
経済産業省が発表した「高齢者に係る製品事故動向」によると、調理中のガスコンロにおける不注意事故は実に2割もの高齢者が経験しており、取扱説明書に関しても「まったく読まない」と答えた高齢者が1割でした。
「これをすれば100%安全」ということはありませんが、取り扱い説明書はよく読み、本体の小さな注意書きも今まで以上に気を配る必要がありそうです。また、調理器具も小さすぎず大きすぎず、ある程度の大きさと重量があるものを選んでみてください。
写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子
前回記事「【チェックリスト&予防法つき】介護状態へのカウントダウン!?シニアの「フレイル」とは」>>
- 1
- 2
Comment