地域の身近な相談相手「民生委員」


父を亡くしてから、長年母の心の支えになってくださっていたという民生委員の女性。そう言えば、高校時代の友人も「親が民生委員の活動に精を出している」と話していたことがあったのを思い出しました。自分には関係のないことだと思っていましたが、母にそこまで寄り添ってくださっていたとは……。

社会福祉士の友人に民生委員について聞くと、「役割はいろいろあるけれど、高齢者やひとり親などの地域の身近な相談相手的な存在かな」と言われました。母は信頼していた民生委員の方を失った今、新たにそのような方に出会えるのでしょうか。

 


民生委員は無報酬のボランティア


幸恵さんのお母様のように、民生委員を頼りにしている高齢者はたくさんいらっしゃいます。全国民生委員児童委員連合会が今春行った「全国1万人への民生委員・児童委員に関する意識調査」では、4割近い方が「民生委員に相談したい」と回答しました。コロナ禍で地域とのつながりが希薄になり、孤立を感じる高齢者が増えたり、生活困窮に悩む世帯が増加したことが要因なのではないか、と同連合会は分析しています。

民生委員は厚生労働大臣から委嘱された「非常勤の地方公務員」で、町内会や市町村の長から推薦された人がその役割を担っています(他薦のみ)。地方公務員と言っても給与はなく、無報酬で活動しています。交通費や通信費として数万円が交付されますが、基本的にはボランティアなのです。

正しくは「民生委員・児童委員」という名称で、現在約23万人の方が全国で活動しています。民生委員の歴史は古く、大正6年の創設から100年を超える歴史があります。平均年齢は66.1歳(2016年度)とやや高めで、主に仕事をリタイヤした世代、地域活動に取り組む専業主婦がメインの層を占めています。

高齢者世帯やひとり暮らしの高齢者、さらにひとり親が増える状況において、民生委員は地域の身近な相談相手として期待が高まっています。民生委員は児童委員も兼ねており、子育てに関するさまざまな相談や支援も行っています。

ところがそこまでの活動をしているにも関わらず、実際は民生委員の存在を知らない人も多く、知っていても役割や活動内容がわかる人は1割にも達しません。前述の「全国1万人への民生委員・児童委員に関する意識調査」では、6割超が民生委員の名称や存在を認知する一方で、「役割や活動内容まで知っている」と答えた人は5.4%に留まりました。

 


民生委員はどんな活動をしているの?


民生委員は、自宅を訪れるなどして地域住民を見守り、必要に応じて行政や専門機関につなぎます。民生委員の主な活動は以下の6つです。

80歳、遠方に住む母が子どもよりも頼りにしている!?地域住民の味方「民生委員」_img2
 

地域の見守り役であるとともに、最近では、新型コロナウイルスのワクチン接種の予約サポートや、タブレットのビデオ通話を用いた安否確認の活動なども行っています。
 

民生委員に相談する方法は?


民生委員は、ケアマネージャーや社会福祉士のように介護のプロではありません。ですがその地域に長く住んでいる分、その土地ならではの特徴や人間関係は当然ご存知で、そこが最大の強みです。ここのお宅には足の悪いおばあちゃんがいる、ここには長い間1人で住んでいる方がいる、といったことを把握しているのが民生委員です。生活保護などお金の悩みは相談しづらいかもしれませんが、日常生活におけるちょっとした悩みごとを聞いてもらうには最適なお相手ではないでしょうか。

親の見守りなど、民生委員に相談したいことがある場合は、自宅(実家)のある市町村の民生委員児童委員協議会(民児協)に相談してみてください。たとえば、今回の相談者・幸恵さんの住む神奈川県では、地域ごとの民児協が一覧になっています。

相談先がわからない場合は、一度役所の福祉相談課に連絡をしてみてください。
 

どんな人が民生委員に選ばれる?


民生委員には、人柄が良く、物事に正しい判断を下す力がある人で、ボランティア精神がある方が選ばれています。町内会の役員などを経験した地域住民(自営業者、会社員やその退職者、専業主婦など)から選任されることが多く、年齢的には60代以上が84.1%を占めています(2016年時点)

民生委員に選出されるための資格などは特に必要ありません。ただし年齢条件があり、新任の場合は65歳未満、再任の場合は75歳未満となっています。
 

新民生委員は2022年12月1日から


民生委員の任期は3年で、3年に1度一斉改選が行われます。今年の12月1日がちょうど切り替えの時期で、新たな民生委員の任期は2025年11月30日までとなります。ただし「新たな」と言っても前期からの再任が約6割で、残り4割が新たに選出された方ということになります。

民生委員が相談・支援をする主な問題は、かつては生活保護家庭や一人暮らし、認知症などの高齢者問題でした。ところが現在は、子どもへの虐待、貧困、引きこもりなど、新たな課題がいくつも顕在化しており、活動も増えてきています。名誉職ではあるものの、負担も多く、地域住民からの理解が得られず罵声を浴びることもある上、無休に等しいボランティア。国が在宅介護へのシフトを推奨する中で、地域包括ケアの重要性も叫ばれています。

ミモレ世代の中には、かつて親御さんが民生委員をやっていたという方もいるでしょう。また、これから民生委員にお世話になるという人もいるかもしれません。今回の委員の改選を機に、地域にこのような役割を持つ人がいるということを知っていただき、関心を持っていただけたけたら幸いです。
 


イラスト/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 

80歳、遠方に住む母が子どもよりも頼りにしている!?地域住民の味方「民生委員」_img3
 


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