家系図を作らせるのは、家族を不幸から救えると信じさせるため
有田:勧誘の手口は、単純な社会心理学(他者の存在によって、個人の行動や感情がどのような影響を受けるか)なんですよね。「親切にしてくれる相手には親切にする」とか「足元にボールが転がってきたから投げ返す」とか、そういう心理を利用する。で、ある段階までくると、戸籍謄本とかを取り寄せて、家系図を作らせます。ここから「先祖解怨」が始まります。本人の両親の、父方母方の両親の4系統で遡り、その中に「先祖の悪い因縁」を探すわけですね。
アツミ:先祖を「430代前まで遡る」という。対策弁護士連絡会が「1代20年としても縄文時代までいってしまう」と突っ込んでいた、あれですね。
有田:たとえば「自殺者」「精神を病んだ人」「離婚した人」「高齢で独身の人」など、マニュアルの中には22項目くらいが示されていて、「〇世代前に色情因縁があったから」などと説明される。この段階までには、様々な個人的な悩みとか家庭の問題を聞き出されているし、併行して教義による地獄の恐怖も刷り込まれています。そもそも日本人って「ご先祖様」って言葉に弱い人が多いんですよね。「これを買わないと家族が不幸になる」とか「献金で家族を地獄から救える」とか言われて、お金を出してしまうんです。
アツミ:そもそもキリスト教で先祖の因縁話って、なんか違和感があるし。相手のペースに乗ってしまうと「あの時に何ではっきりと言えなかったんだろう」って思うこと、普通でもありますけど、そういう感じなのかも。冷静に考える隙とか余裕が持てなくなっちゃうというか。
まじめな人の使命感を利用して、マインドコントロールしていく
有田:例えば、安倍晋三元首相を殺害した山上徹也の母親は、夫が自殺し、幼いころに病気で片目を失った長男も、後に自殺しています。1億円を超える献金をしていると聞いていますが、その過程では家族の地獄での苦しみや先祖の因縁話をされていたはずです。教会の言葉では「氏族メシア」というんですが、「家族を救うのがあなたの使命」という話を信じこまされていったんだと思うんですよね。信者の方は本当に家族思いで、まじめで一生懸命な人が多いんですよ。
アツミ:なんだか言葉になりません。
有田:山上の母親は子供たちを入信させようと、韓国で行われる「40日修練会」に何度も連れて行っているんですね。というのは母親は結婚してから入信したので「祝福(合同結婚式)」に参加しておらず、子供たちは「原罪」を持っているわけです。
※カトリックにおける「原罪」
蛇にそそのかされたアダムとイブが神が禁じた「善悪の知識の木の実」を食べたこと。
そこから全人類に受け継がれる罪。
※統一教会の「祝福」
「蛇=サタン」にそそのかされ神の摂理から外れたアダムとイブ、そこから生まれた原罪を引き継いだ人間たちが、再臨のメシアとその妻=「真の父母」の祝福による結婚式で、神の愛と血統を受け継ぐ理想の家庭を作ることができるとされる。
有田:事件の後、母親が「教会に申し訳ない」と言っているんですが、「自分の信仰心が足りなかったから」という理解なんです。息子を入信させ祝福を受けさせていれば、こんなことにはならなかった、と。マインドコントロールと言われるのは、そういう思考回路にはまり込んでしまうからなんですね。
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩(編集部)
有田芳生さん1952年京都府生まれ。ジャーナリスト。出版社勤務を経てフリージャーナリストとして活躍。主に週刊誌を舞台に、統一教会、オウム真理教事件等の報道にたずさわる。2007年まで日本テレビ系「ザ・ワイド」に出演。2010年に民主党から立候補し参議院議員となり、拉致問題、差別、ヘイトスピーチ問題などに積極的にとりくむ。