入居一時金400万円の行方は…?


相手の方も認知症だそうですが、母はそれ以来そこでの生活が辛くなったようで、「帰りたい、戻りたい。ここは嫌、別のところに移る」と泣きながら訴えてきます。フロアを変更してもらうこともできるようですが、母は施設に対する嫌悪感が最高潮に達し、退去したいと言って聞きません。

幸い自宅はまだ何も手を付けていないので、とりあえず戻ることも可能です。ですがそもそも、途中退去したところで初期費用は戻ってくるのでしょうか。入居一時金として400万円近く支払ったので心配です。

 


介護施設におけるクーリングオフは90日


結論から言うと、クーリングオフ制度を使えば入居後でも初期費用の返還は可能です。ですがそれには期限があります。

クーリングオフとは、締結後一定期間に限って契約を解除できる制度で、その期間は対象取引ごとに8~20日と決められています。梢さんのお母様の場合、すでに契約から60日以上経過してしまっているため、この制度は使えないのでしょうか。

介護に関わる方以外にはあまり知られていませんが、通常のクーリングオフとは別に、老人福祉法におけるクーリングオフ制度というものがあります。これは初期費用(入居一時金)が発生する施設の契約を取り消したい場合や入居者本人が死亡した場合など、90日以内であれば契約を解除できる制度です。90日以内に解約を申し出ると、初期費用からそれまでの施設利用料や介護サービス費用などを差し引いた額が全額返還されることが法律で定められています。

クーリングオフの対象となる範囲は、都道府県や老人ホームによって多少異なります。そのため、契約時にはクーリングオフの説明をしっかり聞いておいてください。もし解約が90日を1日でも過ぎてしまうと、前払金の一部が返還されないこともあるので注意が必要です。

 

途中退去で問題になりやすいのは利用料の前払い


途中退去で問題になりやすいのが、利用料を前払いしているケースです。入居後は、利用期間に応じて入居一時金が償却されていきます。その算出方法は施設によってさまざまで、入居した時点で支払いが確定し、退去時には返還されない「初期償却」もあります。この初期償却を巡って施設側と認識が異なり、「途中退去時の返還金が少ない」となるトラブルは数多くあります。

償却に関しては、契約書や重要事項説明書に記載されているので、確認を怠らないことはもちろん、不明点があればきちんと説明してもらうようにしてください。

施設倒産でも500万円は保証


では、自主的な退去でなく、老人ホームが倒産したり、経営が悪化した場合はどうなるのでしょうか。実は2021年から、すべての老人ホームで保全措置が義務化されています。入居後、初期費用は毎月少しずつ償却されますが、万が一経営が悪化して倒産しても、未償却の前払い金を保証してくれる制度です。

ただし、入居者への返還が確実に約束されているのは最大500万円まで。入居一時金が1000万円残っている状態で倒産した場合、500万円しか返ってこない可能性もあります。

有料老人ホームの利用料の支払いには、前述した「前払い方式」に加えて「月払い方式」もあります。月払い方式では利用料を毎月支払うため、入居時に必要な金額は少なくて済みます。毎月の支払いはその分高くなりますが、倒産や経営悪化のリスクも考慮して、個人的には月払い方式をお勧めしています。

もしものことを考えて、知っておきたいクーリングオフ制度と支払い方式。親が施設に合わないと訴えてきたら後戻りすることもできますので、そのためにも入居時の説明はきちんと受けておきたいものです。


イラスト/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 

 


前回記事「ムダを省く!通院は極力18時以降と土曜午後を避けるべき理由とは?【医療費を賢く節約】」>>

 
  • 1
  • 2