当然のことかもしれませんが、インフレ手当の支給に前向きな企業は相応の業績を上げているところが多く、「無い袖は振れない」というのが企業側の本音と言えるかもしれません。また、手当てを支給した企業であっても、賃金全体の底上げにつながるベースアップについて積極的なところは少数にとどまっています。

これだけ物価が上がっても...手当は出しても「賃上げ」に踏み切れない、日本企業の微妙な温度感<br />_img0
イラスト/Shutterstock

インフレ手当はあくまで一時的な支出ですから、企業にとっては手当を支給した年度の利益が減るだけで済みます。ところがベースアップを行えば、企業の総人件費が増加すると同時に、それは翌期以降、すべての期の業績に影響してきますから、企業としてはベースアップには尻込みしがちです。

 

今、進んでいるインフレは、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響が大きいですから、これらが一段落すれば物価も多少は落ち着く可能性があります。しかしながら、インフレが発生している根本的な原因は、新興国の経済成長による世界的な需要拡大に食料やエネルギーの供給が追いついていないことですから、これは簡単に解決する問題ではありません。急激な物価上昇が一段落しても、物価が下がって元の水準に戻るとは考えにくい状況です。

そうなると従業員としては毎年の賃金アップが重要であり、やはりベースアップが実施されないと、家計の状況は大きく変わらないとの推測が成り立ちます。

年が明けると、いよいよ来年の春闘が近づいてきます。2023年の春闘においては、一時金や定期昇給といった限定的な賃金上昇ではなく、全体の底上げにつながるベースアップが何パーセントなのかという部分が最大の焦点となるでしょう。また新卒採用においても、これまで以上に賃金に対する注目度が高くなると予想されます。

仕事のやりがいや職場環境など、お金だけが企業を選ぶ理由ではありませんが、労働者にとって賃金は最大の関心事であることに変わりはありません。よい賃金を提示できない企業にはよい人材は集まりませんから、企業にとっても、賃上げに取り組めるのかは、競争力そのものであるとの認識が必要です。

これだけ物価が上がっても...手当は出しても「賃上げ」に踏み切れない、日本企業の微妙な温度感<br />_img1
 


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