涙が出てこないのは、やり切ったから


ーー本書の中の4コマ漫画で、認知症が進んで少しずつ若返っていくお母様と、それを見つめる鳥居さんの様子が心に残っています。どんなお母様だったんですか。

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鳥居 これがなかなかの個性派で、今で言うところの毒母ですね。何につけてもディスってくる。昔からそうです。それで姉も限界を迎えてしまったというのがあります。ただね、私は気が強い性格だから「あなた、よくこんな考え方できますね?」ってちょっと燃えてくるんですよ(笑)。介護を始めて母と対峙する機会が増えると、「あれ、そういえばこんな女だったな」「でも今は私がいないと生きていけないんだな」なんてあれこれ考えたりしましたよね。本書はそんな母との老人ホームでの応酬も見どころの1つです。

 


ベストは目指さない。ベターでじゅうぶん

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写真:Shutterstock

ーー鳥居さんの激しいツッコミと、お母様がそれを全く意に介さない様子に、思わず介護エピソードということを忘れて笑ってしまうことが何度もありました。そんなお母様を看取られた今、改めて思うことはありますか。

鳥居 2017年に母が亡くなってから今まで、一度も泣いていないんですよ。それは「死んでよかった」じゃなくて、「やり切った」と自分でも納得しているから。もちろん、もっとこうしていたら……と考えることはあります。あるんですけど、10年介護して思ったのは、介護にベストは要らないっていうこと。ベターでじゅうぶんなんです。今置かれている条件や環境の中で、最善と思える選択をすればいいだけの話。自宅で親をみるのが親孝行で、親を施設に丸投げするのが親不孝なんてことはありません。自分にとっての最善を選ぶ。後悔しない介護に大切なのは、そこだと思います。途中でもし「選択を間違った」と思えば、そこでまた考えればいいじゃないですか。それくらいゆるくいかないと自爆しちゃいます。

――鳥居さんにとって、介護の10年間はどんな期間でしたか。

鳥居 人生には、その時しか味わえない「旬」があると思っています。受験も仕事も、結婚も、育児も、例えばPTAの役員なんかもそうですね(笑)。だから母の介護をさせてもらえたのも1つの人生の旬だと考えていて。大変だったけど、その時にしか味わえないことを味わい尽くさせてもらった時間でした。ある先生の言葉を借りると、人生って「幸せになる」ためのものじゃないそうなんです。「成長すること」こそがミッションで、最も成長できるのが「人間関係の摩擦」だと言うんですね。そういう意味では、私は私に「よくやった方なんじゃない」って声をかけられるくらいには、がんばれたと思っています。

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『増補改訂版 親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』
著者:鳥居りんこ 双葉社
1485円(税込)

親の介護とお金の問題は、直面してみないとわからない! 著者が実際の介護で体験した、高齢者狙いの詐欺被害、遺産相続の思わぬ落とし穴、親のお金の管理などの「介護あるある大ピンチ」。そこから学んだお金の知識を、わかりやすく1冊で紹介します。10年におよぶ介護、その大変な日常でさえも軽妙に描写する著者の姿には、今まさに介護中の方も、これから介護という方も、勇気をもらえるはず!



イラスト/渡邊杏奈(MONONOKE Inc.)
取材・文/金澤英恵

 

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