黒人にとって大事な作品であると同時に自分たちの出自を誇りたくなる作品【spiさん】


ミモレ世代は様々なものに“縛られている”世代の女性ともいえるので、spiさんがおっしゃるカーティス像への納得感は高いかもしれません。望海さんは一方で「ディーナは理解されにくいかも」と続けます。

 

望海:ディーナに対する共感というのは得にくい気がするんです。成功もしているし、今のままでいれば幸せなはずなのに、なぜそこからわざわざ抜け出す必要があるのか……。でも、そこは1960年代という時代背景や当時の黒人社会というものだったりが関係しているんですよね。それらをどこまで表現できるのかというのが、日本で上演する難しさでもあると思っています。そこを演出の眞鍋さんと一緒につくり上げている中で、どういうところに共感してもらったらいいのだろうという着地点を探していきたいと考えているんです。

 

ビヨンセ・ノウルズやジェニファー・ハドソン、ジェイミー・フォックス、エディ・マーフィーという錚々たるハリウッド俳優が集結してつくられた映画版を観ている読者の方も多いかもしれません。でも、海外で上演されていたミュージカル版を観たことがある方は少ないのではないでしょうか。それぞれの違いやミュージカル版の見どころについて教えていただきました。

望海:映画版では美しさや華やかさと同時に、人間同士の戦いといった切なさも感じますが、それをミュージカルという舞台で、しかも日本語でお届けするのは初めてなので、より作品の“深さ”を知っていただけるのではないかと思います。あとは、【ドリームガールズ】たちの衣装が成長していくごとに、新しい曲を出すたびにどんどん変わっていくんです。視覚的にも楽しんでもらえると思います!

spi:初めてミュージカルに触れるというきっかけとしては最高な作品だと思います。皆さん映画を知っていると思いますし、友達と一緒に映画版の『ドリームガールズ』を観ても、「いい話だった」とか「楽しかった」という感想を持つ人が多いんです。まだ稽古が始まったばかりなんですが、演出の眞鍋さんが目指しているのは超ハートフルな世界なんだという印象です。この話の根本は自分の人種や出生に対しての誇りと賛美なんですよ。

それは黒人か日本人かというのはまったく関係なく、『ドリームガールズ』を観た黒人の人々が自分たちの人種を誇りに思ったのと同じように、日本版のミュージカルを観て「望海さんと同じ日本に生まれてきて良かった」とか、「spiくんと同じ時代に同じ国に生まれて良かった」と感じられるのが舞台版の着地点なんじゃないかと僕は思っていて。眞鍋さんとはまだそんなに話せていないですけど、「ああ、日本人でよかったな」とか「同じ時代に生まれよかったな」とか「この作品に携われて良かった」というところに導くように作っている最中ではないかと感じています。舞台版の魅力というのはそこにあります。

映画は俯瞰で観て「そういうことがあったんだ」と歴史を追っているような感覚になりますが、舞台では一緒に歩める。ディーナでもジミーでもカーティスでもいいので、一緒に歩んで一緒に成長して……。物語の最後は解散という形をとるけれど、それは次への一歩へと繋がり、希望を持って劇場を出られるというのが、舞台で観ることの魅力です。

お二人のお話がどんどん盛り上がるので、前編はここまで。『ドリームガールズ』という作品に触れたことのない人でもお二人の説明に「ちょっと興味が出てきた!」と思った方もいるのでは? 後編ではお二人の歌唱や見どころなどを語っていただきました。
 

<Information>
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』

 

脚本・作詞: トム・アイン
音楽:ヘンリー・クリーガー
オリジナル・ブロードウェイ版演出・振付: マイケル・ベネット
演出:眞鍋卓嗣


【東京】2023年2月5日(日)~2月14日(火) 東京国際フォーラム ホールC
【大阪】2023年2月20日(月)~3月5日(日) 梅田芸術劇場メインホール
【福岡】2023年3月11日(土)~3月15日(水) 博多座
【愛知】2023年3月22日(水)~3月26日(日) 御園座


ディーナ・ジョーンズ:望海風斗
エフィ・メロディ・ホワイト:福原みほ・村川絵梨(Wキャスト)
ローレル・ロビンソン:sara
カーティス・テイラー・ジュニア:spi
C.C.ホワイト:内海啓貴
ミシェル・モリス:なかねかな
ジェームス・“サンダー”・アーリー:岡田浩暉
マーティ・マディソン:駒田一


撮影/shitomichi
ヘア&メイク/チエ(KIND、望海さん)、田中陽子(spiさん)
スタイリスト/菊池志真(望海さん)、中西ナオ(spiさん)
取材・文/前田美保
構成/坂口彩