キャリー・マリガンが演じるミーガンとゾーイ・カザンが演じるジョディの2人に共通する、娘を育てる母親という属性を活かした点も大きそうです。産後うつや子育て中の葛藤から心の平静を取り戻す延長線上にこの取材があったことを描いているからです。
そうしたのは意図的です。ジャーナリズムの権威であるピューリッツァー賞を受賞した原作の記事や書籍では書き手の私生活は言及されていませんでした。製作したプランBエンターテインメントが映画化のために拘って描いていることを明かしています。映画業界で起こったワインスタインの話ではなく、「自分に起きたことを語るために立ち上がったすべての女性についての映画」だと。このメッセージを届けるためのものでした。
トラウマを抱えた複雑さや後悔の気持ちに共感できる
暴行場面は一切見せていませんが、サバイバー(被害者女性)たちが語る言葉が実に生々しい。ミラマックス社のロンドンオフィスで若手アシスタントとして働いていたゼルダやロウィーナら演じた女優たちの核心に迫った演技によって、強く印象に残ります。それは身を切る覚悟で勇敢に行動し、声を上げた強い女性という姿だけを描いているわけではないからでしょう。
20年間にわたり沈黙を強要されながら性的暴行のトラウマを抱え続けた複雑さや、20代の若さゆえに何をどうすれば良かったのか判断できなかった後悔の気持ちまで表しているからです。これこそ共感できる部分です。
本編では、自身の経験を公表したことで、ほかの多くの女性たちに調査への協力を促すことになった女優のアシュレイ・ジャッドが本人役で出演もしています。こうしたリアリティを追求した演出の一連に、ワンシーンだけ事件現場のワインスタインの肉声が使われています。さすがに気分が悪くなるようなやり取りです。ハラスメント関連でトラウマがある女性は注意が必要です。
アメリカでは2022年11月から既に公開され、辛口批評で知られるサイト「Rotten Tomatoes」では一般オーディエンスから5つの星のうち4.4と、高評価を得ています。世界的ムーブメントとなった#MeToo 運動をいま一度、冷静に考え直させてくれる一作であることが映画『SHE SAID』の良さだと思います。
<作品情報>
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
全国公開中
監督:マリア・シュラーダー
製作総指揮:ブラッド・ピット、リラ・ヤコブ、ミーガン・エリソン、スー・ネイグル
出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー、サマンサ・モートンほか
原作:『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』
ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー/著 古屋美登里/訳 新潮文庫/刊
配給:東宝東和 上映時間:129 分
© Universal Studios. All Rights Reserved.
文/長谷川朋子
構成/山崎 恵
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