繰り返される暴言が、少しずつ妻を洗脳していく


「子どもが生まれると、彼は私にひどく当たり散らすようになりました。といっても、手を上げるわけではありません。精神的にいたぶるような言動が始まります。『お前の子育ては非常識だ。その証拠に赤ん坊がガリガリだ』『寝かしつけもできない母親がこの世にいるのか』など……。私は母が早くに亡くなっていて、新生児育児のあれこれをきくことができなかったこともあり、『私の手順や育て方は間違っているのかもしれない』と思い悩むようになります」

 

それでも、元来の根性と我慢強さで、ワンオペで新生児期を乗り切ります。育児休暇中だったので、育児は自分が頑張るものだ、と考えていた涼子さん。詳しく取材すると、圭佑さんの言動は非常に巧妙で、じわじわと真綿で首をしめるように涼子さんを追い詰めます。

たとえば、赤ちゃんがハイハイできるようになった頃、引き出しの奥に大切にしまっていた実母の形見のチェーンブレスレットがなぜかフローリングに落ちていました。それを見つけたと主張する圭佑さんは、『子どもが誤飲したらどうするんだ! お前は最低の母親だな!』と激昂し、その大事な形見を罰だと言って捨ててしまいます。涼子さんが妊娠してからつけていないし気を付けて掃除しているから落ちていたのはおかしいと言っても、怒鳴り散らすばかり。

 

また、お子さんがソファから落ちてしまったとき、圭佑さんは『もし子どもが怪我でもしようものなら、お前の腕や脚をへし折る』と宣言したというのです。

惚れ込んで結婚を申し込んだ素振りだった彼が、何故そこまで豹変してしまったのか。それだけ子どもを偏愛していたのでしょうか?

「いえ、口ではそんなことを言うのに、子どもにはさして興味がないのがわかるんです。むしろ、夜泣きをしていた頃はうっとうしい、とあたり散らしていました。私は混乱して、気持ちの置き所がなくなり、四六時中頭が痛むように。もちろん彼は助けてくれないどころか、母親業一つとっても満足にできない女だと追い打ちをかけてきて……。子どもの健診のとき、瘦せこけた私を見かねた区のスタッフが、カウンセリングを勧めてくれました。育児ノイローゼだと思われたのだと思います」

当初は育児の悩みを尋ねられ、おずおずと自信が持てない状況だと説明するうちに、カウンセラーは夫の言動が常軌を逸していることを指摘。「自己愛性人格障害」の兆候と重なる部分があるので、夫を診療内科に連れていくことはできないか、と涼子さんに告げました。