「今日は特に何もナシ」なんて日も、何もないってことはないでしょう
――毎週のお題は、編集部から出されるとか。流行り言葉や、そのときにブームになっているもの、季節の言葉などから選ばれるそうです。9年目ともなると、内容のカブリなども出てくるのでは……?
一之輔:もちろんまったく同じお題は出ないですが、似たようなお題だと「書こうかな」と最初に思うものは大概前に書いちゃってるんですよね。だから「こんなの前に書いたかも」と思ったら、それ以外のことを書くようにはしています。まあ、カブリを避けるために前に書いたものをちゃんとメモしておけばいいんですけど……。もう9年目ですから長期連載なんですかね。僕にとっては、もう生活のサイクルの一部ですね。
――どんなお題が来るかは、届くまで分かりません。ありとあらゆるタイプのお題に柔軟に対応する――というのは、ミモレ読者にとっても勉強になりそうです。そのために、普段から一之輔さんが行っている“インプット”や“アンテナを張る方法”について聞いてみました。
一之輔:ええ? アンテナを張る方法ですか? 僕も無理矢理書いているところはあるんですが……、仕事ですから(苦笑)。でも、日記を書くのと一緒です。今日一日何もなかったじゃ寂しいじゃないですか。子どもの一行日記とかを見ると「今日は特に何もナシ」なんて書いてあったりしますが、何もないってことはないでしょう。
「何かあっただろ?」って聞くと、「牛乳飲んだ」って答えるんです。「じゃあ、牛乳がどうだったかを書けばいいんじゃないの?」って。牛乳が美味しかったのか、牛乳は今日も白かったのか――。それだけで話は膨らんでいきますよね。たとえば、青い牛乳だったらどんな気持ちになるだろうとか。色なら、じゃあどんな色だったら楽しいのか、嫌なのか、そうやって話を膨らませていけばいくらでも書けるよって、子どもには言ってます。
大学生の頃にCMのゼミに入っていて、よく“ブレインストーミング”をやっていたんです。ひとつの事柄からどんどん枝葉を広げていく作業。それだけで話の広がり方というか、転がり方はいくつもあると思うんですよ。もしミモレ読者の皆さんにマクラ的なことを話す機会があったりするならば、その話が別に面白くある必要はないと思うので、そんなふうに話を膨らませてみるのはどうでしょうかね……。でも、自分で言っといて何ですけど、青い牛乳ってマズそうですね。これでイチゴのフルーチェとか作ったら、どんな色になるんだろう(笑)。
――目を輝かせて青い牛乳について語る一之輔さんは、高座で楽しそうにマクラを話すときとまったく同じ。いたずらっ子のような表情が見え隠れしていました。高座でかけるマクラはナマモノですが、同じネタでもエッセイは出版物として“残る”モノ。一之輔さんの中で気を遣う部分は違うのでしょうか。
一之輔:後に残るから気を付けようとはあまり考えてないですけど、自動的にWEB媒体(AERA.dot)にも転載されるので、ライブよりはるかにいろんな人が読むんだということは考えて書いています……。でもまぁ、そうだなぁ。WEBに載ってタダで読んでる人に向かって気を遣ってもしょうがないかなっていうのはありますね(笑)。(週刊朝日を)買って読んでくれる人には気を遣うかな。そこにお金が介在しているから。WEBだと結構色々書かれたりしますが、何言っちゃってるんだろうなって、あんまり気にしません(笑)。
ラジオなんかも一緒ですね。結構色々言われるので、ラジオだとはっきり言っちゃいます。「タダで聞いているクセにうるせぇ!」って(笑)。そしたらディレクターに、「一之輔さん、スポンサーがいますから!」って言われました。
――連載が始まって今年で9年目。週刊朝日には毎週のようにファンレターが山のように届いて……なんていうこともありそうですが?
一之輔:一度も貰ったことないけどなぁ……。(担当編集さんに向かって)届いてますか? え? 一通も来たことない? じゃあ、ファンレターが届いてないって書いておいてください(笑)。募集中です!
一之輔さんのトークは尽きることなく続きます! 後編では書籍にも幾度となく出てくるご家族のお話もたっぷり。お子さんとの接し方や良きパパぶりについてフィーチャーします。そして、触れる機会がありそうで少ない“落語”や“寄席”の魅力についてもたくさん語っていただきました。後編もお楽しみに。
<新刊紹介>
『まくらの森の満開の下』
朝日新聞出版
1月20日発売 ¥1750
今のりにのっている落語家・春風亭一之輔が、落語のイントロ「まくら」を噺(はな)すようにつづったエッセイ集の最新版。桂宮治が「笑点」の一員に抜擢された際の気持ちを赤裸々に書いた「新メンバー」、コロナ禍で頻発した落語界の代演について考察した「代役」他、抱腹絶倒の時事ネタエッセイを多数収録。「週刊朝日」連載の単行本化第3弾。
撮影/shitomichi
取材・文/前田美保
構成/坂口彩
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