たった「1滴」のアンチでも、希釈するのはとてつもない作業

羽生結弦選手のプロ転向に、私たちが今思うこと。どれだけ偉大でも「神格化」はしたくない【Vanessa×ヒオカの推し語り】_img4
 

Vanessa 元気を与えたいから、笑顔でいる、楽しく見せるっていうことが主軸にはあるんですけど、それだとやっぱり「マネキン」というか、「コンテンツ」として見られてしまう。だから、時々弱音を吐くことも必要になってくるし、それだからこそ神格化されない、「人間に下りてくる」ことができる。でも羽生くんは、その頻度はすごく低いんですよね。ブログもやっていないし、最近やっとSNSを始めたけど、日常をつぶやくことはまだないですし。記者会見とかでしか語れない。だから溜まってしまう苦しみもあるのかなあって。

応援する側として、無力だなって思います。実際は、応援する声が大多数だとは思うんです。でも、例えばプールの中にコーヒーを1滴たらすと、それはもう水ではなくなってしまう。だからアンチの声があれば、応援の声がたくさんあっても、それを希釈するのに倍以上の水が必要になってしまう。ずっと、その苦しさを1人、または身近な人と共有するしかない。

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平昌五輪、フィギュアスケート男子を終え、健闘をたたえ合う金メダルの羽生選手、銅メダルのフェルナンデス選手、銀メダルの宇野選手(2018年2月17日)/写真=『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』P188より(時事通信社)

Vanessa 応援してます。大好きです。好きなことやって。健康でいて。それすらも届かない精神状態ってあるのかなと思うんです。何も考えていない人、その感情のはけ口の、たまたまターゲットになってしまったような言葉に、大多数の応援の言葉が敵わないことがある。それがすごく無力だなと思います。どうか、昨日より今日が穏やかであってほしいと願い続けるしかないので。

届いてほしい言葉は届かなくて、届いてほしくない言葉は届いてしまう。それがオタクである人間が抱え続ける無力さです。どうしたらええねんって。それでも、羽生くんが辞めないでいてくれて、やりたいことを見失わずにいてくれるっていうのは、当たり前じゃないと思うんです。辞めたいって思ったことも、何度もあったとおっしゃってますし。

 

「言い訳に聞こえる」という批判に思うこと

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グランプリシリーズ第1戦ロシア杯、エキシビションでの演技(2017年10月22日)/写真=『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』P163より(時事通信社)

ヒオカ 健康であってほしい、ただただ穏やかであってほしい、と願う気持ち、すごくわかります。そう思える存在がいるって、すごく尊いことですよね。確かにスターであるがゆえに、いわれもないことを言われてしまうこともあって。2022年の北京五輪の後、怪我をしていたことを公表したとき、「言い訳に聞こえる」と一部批判があって。ふざけんなって思いました。

私事なんですけど、先日もともと痛めていた膝の痛みが悪化して、注射で水を抜いたんです。めっっっっっっっっちゃ痛くて! でも、羽生くんの痛みに比べたら! って思いました。この本を読んでも、本当に痛々しい怪我の連続なんですよね。腹部の手術まで。本当に、とにかく無理せず、怪我なく、と思わずにはいられません。といっても、羽生くんはスポ根でストイックだから無理をせざるをえないのだとは思うのですが。現役時代以上に練習してるっていうのを聞いて、「スポ根が加速してる」って!

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全日本選手権、表彰台でトロフィーを見つめる羽生選手(2021年12月26日)/写真=『羽生結弦 アマチュア時代 全記録』P284より(時事通信社)

Vanessa 羽生くんって、終わった後に言うんです。結果が出た後に言うのが、スポ根なんですよ。前もっては言わない。絶対に途中で怪我のことは言わない。4回転半ジャンプが決まらなくて、悔しかったと思うんです。松岡修造さんや荒川静香さんの前では「申し訳ない」って言っていて。「申し訳ないなんて言うな!!」って思いました。申し訳なくなんかない! でも4回転半が、点数は入らないけど、認定されたと知らされたとき、羽生くんが「そっかぁ、そっかぁ」って、絞りだすようにつぶやいていたので、それだけで感動しました。