外部にいくら充実したサービスがあっても、経済的な事情で利用できないということでは意味がありません。一連のサービスについては極めて安価に利用できるようにすべきですし、場合によっては直接給付のような形で、使途については本人に委ねるといったやり方も必要です。

そしてもっとも重要なのは、教育費など長期にわたって必要となる支出への支援でしょう。

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幼稚園から高校まで、すべて私立に通わせた場合の学費は何と1838万円にもなり、すべて公立だとしても574万円かかります(※1)。さらに大学進学となると、生活費を合わせ、1000万円もの大金が追加で必要となります(私立の場合)(※2)。ここまで来ると、住宅を購入するようなレベルの金額ですから、もはや平均的な所得の世帯では対応できません。

 

教育費の負担が出産をためらわせる要因のひとつとなっているのは間違いなく、ここが改善されなければ、出生率の上昇など望みようがありません。

諸外国はイノベーションの進化に合わせて高等教育を充実させると同時に、大学の学費を無償化するなど、教育の機会均等を進める政策を同時並行で行っています。本気で出生率を上げたいのであれば、大学までの学費をすべて無償化するくらいの支援があってもよいでしょう。

教育の無償化について議論すると、大学に入っても怠ける学生が多いので、希望者全員に支援するのは無意味であるとの意見が出てきます。大学に行くことが特別なことだった昭和の時代ならいざ知らず、IT化やグローバル化が高度に進んだ現代においては、大学4年までの学習というのは、かつての高校教育に相当するものであり、特別な人だけが受けるものではありません。

高等教育を受けるために、極めて大きな自己負担が必要となるのは、米国など限られた特殊な国だけであり、日本は米国型のモデルを目指す必要はまったくないと筆者は考えます。

子育て世代が出産に消極的なのは、女性の晩婚化など社会風潮の問題ではなく、物理的・経済的問題であり、状況は極めて切迫しています。物理的・経済的負担を確実に軽減する措置を実施しない限り、状況を改善することは不可能です。

岸田首相は「異次元の子育て支援」という言葉を使い、一部から批判を受けたことから「次元の異なる子育て支援」に言い換えました。この際、言葉はどうでもよいですから、本当の意味で従来とは異なる対策になるよう、必要とされる部分に、十分な金額を手当てすることが求められます。


※1 参考:文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」より、「令和3年度における幼稚園3歳から高等学校第3学年までの 15 年間の学習費総額」
※2 参考:独立行政法人日本学生支援機構「令和2年度 学生生活調査結果」

 

 


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