欠けている部分を求め続けて、ごく個人的な自分だけのストーリーを見つければいい
「ファンタジー」と「捨てられない毛布」と「自分以外は誰も入れない部屋」の3つがいいバランスで揃えばパーフェクトなのに。作品を読み終えて思うのはそんなこと。
山田:なかなか上手くいかないんですよね。でも全部が満たされちゃったら、サガンの小説に出てくる「人生に倦んだ女」になっちゃう気がする。揃っていてもどこか欠けていくものだし、欠けてる部分を求め続けることが、「生きている」みたいなところもあるんですよね。「欲しい」と思ってるうちが花。恋だって結婚生活だって仕事だって、いつなんどき裏切られることもあるから、優先順位を決めるっていうのは賢いやり方かもしれない。仕事が大好きだったら、仕事に恋するのももよし!
ちなみに山田さんの現在地はどんな優先順位なのでしょうか?
山田:私は夫婦生活ですね。なんかわからないけど、なんでしょうね、可愛くて仕方ないものがそばにいるって感じ。もちろんそれは私にとっての可愛いもので、他の人にしたらぜんぜん可愛くないかもしれない。幸せなんてすごく個人的なストーリーだから、自分にとって愛しいものが何かを知るには、やっぱり長年の修行が必要なんですよ。可愛いと思ってたけど違った、可愛いと思ったけど違った、っていうことを長年繰り返し、年を重ね、「本当に可愛いと思えるものってこれだったんだ、青い鳥はここにいたんだ」みたいな話になってきたんじゃないかなと思います。
「「自分はやらない」と不倫を断罪する人へ。まるで小説、山田詠美の人生が明かす文学の意味」>>
<新刊紹介>
『私のことだま漂流記』
著:山田 詠美
すがすがしく力強い声がする。
この先、人間として小説家として迷ったとき、
私はこの本の言葉に奮い立たされることになるだろう。
ーー宇佐見りん
山田詠美は常に今を生きている。それも常に今に迎合せずに。
だからこそ、誰よりも文学を愛した少女は、誰よりも文学に愛される作家となったのだ。
ーー吉田修一
初めて「売文」を試みた文学少女時代、挫折を噛み締めた学生漫画家時代、高揚とどん底の新宿・六本木時代、作家デビュー前夜の横田基地時代、誹謗中傷に傷ついたデビュー後、直木賞受賞、敬愛する人々との出会い、結婚と離婚、そして……
積み重なった記憶の結晶は、やがて言葉として紡がれる。「小説家という生き物」の魂の航海をたどる本格自伝小説。
私は、この自伝めいた話を書き進めながら、自分の「根」と「葉」にさまざまな影響を及ぼした言霊の正体を探っていこうと思う。
ーー山田詠美
撮影/市谷明美
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩
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