住宅に近い感覚で暮らせる「サ高住」
「サ高住」は、「サービス付き高齢者向け住宅」という民間が運営するバリアフリーの賃貸住宅です。名称に「住宅」と付いているように、施設というより高齢者が暮らすマンションをイメージしていただければ分かりやすいと思います。キッチンや浴室付きの居室も多く、外出の制限もないため、自宅にいる時と変わらず自由度の高い暮らしが楽しめます。門限がある場合は、受付に伝えれば時間外でも外出することは可能です(安否確認のため)。
有料老人ホームとの大きな違いは、高額の入居一時金が不要な点。介護度が進んでそこでの暮らしがままならなくなったとしても、気軽に住み替えができます。
サ高住は、2011年の法改正で創設された比較的新しい住まいです。孤独死の不安や保証人がいないといった理由で賃貸住宅が借りにくい中、高齢者の住宅確保の目的もあって、右肩上がりで増え続けています。2022年12月末時点で全国各地に28万384戸あり、最も多い大阪に続き、北海道、兵庫、埼玉、東京と都市部に多く建てられています。
サ高住は、1人でも夫婦でも暮らすことができる上、高齢者ケアに詳しい生活相談員が常駐していて、安否確認や生活相談のサービスを受けられます。その他、追加料金を支払えば受けられるサービスもあり、食事は96.2%、入浴等の介護は49.5%のサ高住で提供されています(サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析より)。
60歳以上の方、または要介護認定を受けた60歳未満の方が対象のため、高齢であることを理由に入居を断られることはなく、契約の更新もありません。
いくらで住める?
費用もそこまで高くなく、入居一時金は0〜数十万円、月額費用は10〜30万円ほど(別途敷金は必要)。一般的な賃貸住宅に比べると少々お高く感じるかもしれませんが、その分、人の目があるという安心感には代えられません。
ただし部屋の広さには注意が必要です。居室は原則25平米以上ですが、共用部分が広い場合は18平米以上でも可能で、25平米未満の部屋が78.8%と大半を占めているのが実情です。
相談者・百合子さんのご友人は、ご両親がサ高住に引っ越したとおっしゃっていました。2人部屋はすべてのサ高住にあるわけではありませんが、料金は個室を2つ借りるより2割ほど安くなるのが相場です。有料老人ホームは一般的に入居一時金で数百万~数千万円かかることも多く、それがご両親2人となると現実的ではないでしょう。その点サ高住は、気軽に入居できるのがメリットです。
多くの「サ高住」には介護サービスがない
サ高住には「一般型」と「介護型」の2種類があり、その多くは一般型です。介護施設ではないので、職員が介護をしてくれるわけではありません。そのため、介護サービスを利用する場合は、自宅にいる時と同じように介護事業者と契約し、別途お金を払って必要なサービスを受けることになります。ですがサ高住の4分の3がデイサービスや訪問介護の事業所などを併設(または隣接)しているので、自宅から通うのとは感覚が違います。
一方、介護型は「特定施設」に指定されているサ高住で、こちらは24時間体制で介護を受けることが可能です。全体のわずか8.9%しかありませんが、要介護度が高い方にも対応できるよう、介護スタッフを配置して、定額で介護サービスを提供しています。
国土交通省と厚生労働省が運営する「サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム」には、国内のサ高住が全件掲載されています。市区町村ごとに検索が可能で、各住宅の費用や住戸面積、建物の特徴、入居者情報、介護・医療サービスの利用状況などが記載されているので、施設探しにはぜひこちらを活用してみてください。全国で190拠点以上の高齢者住宅・施設を展開する学研グループの「学研ココファン」、SOMPOケア、関西圏で7,000戸以上のサ高住を提供するフジ住宅グループの「フジパレスシニア」などが、サ高住の主な事業者です。
住みながら働ける新たな試みも
最近は、入居者が働いて収入を得られるサ高住も登場しています。たとえば、千葉県を中心に10施設を展開する「銀木犀(ぎんもくせい)」では、施設内に駄菓子屋や豚しゃぶレストランが併設されていて、入居者が接客を担当しているようです。金沢にある「シェア金沢」でも、天然温泉やレストランのスタッフ、ショップでの陳列・販売など、働きたい人には仕事が与えられます。他にも、人手不足が深刻な介護業界では、入居者に働いてもらって施設内の人手を補う試みも出てきています。
仕事は収入を得られて生きがいも感じられるものですし、適度な就労は認知症予防にもなります。幸いにして、百合子さんの父親はまだ介助などは必要としていないようなので、「住みながら働けるサ高住」も検討する価値はありそうです。
要介護度の低い方や、夫婦のどちらかが要介護になっても一緒に暮らしたい方、将来を見据えて早めに住み替えるアクティブシニアなど、一定層にニーズのあるサ高住。要介護度が高くなった場合は、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームへ転居する必要が出てくるかもしれませんが、今はまだ元気で老人ホームに入るほどではないけれど、見守られている安心感が欲しいという親御さんには、サ高住を1つの住まいの選択肢として提案してみてはいかがでしょうか。
写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子
前回記事「健康な親ほど要注意!冬場に危険視される風呂の事故「ヒートショック」とは」>>
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