気前が良かったはずなのに...実は「貯金ゼロ」だった夫


数人の男性の中から、結婚相手をどう決めるか。茜さんが考えたのは、あまりにも驚きの方法でした。

「それぞれの男性と一定期間集中してお付き合いをして、妊娠をしたらその人と結婚しようと決めたんです。要は避妊をしないで、生理が来たらお別れするというのを数回繰り返したんです。そうしたら、晴れて夫の子を授かりました」

ライターという仕事をしていると実に様々な人の内情を耳にすることがあり、特に経営者の方の突拍子もない発言に驚かされることが多いですが、茜さんのこの「運命に身を委ねる」方法には一瞬言葉を失ってしまいました。

ただ、茜さんは父親が誰だかわからないという事態にはならないよう、細心の注意は払っていたそう。また非常にコミュニケーション能力に長けていたため、男女トラブルに発展することなども一度もなく、どの男性とも穏便に交際と破局を繰り返したと言います。

そして24歳のとき、茜さんは雅之さんと結婚、長女を出産。その翌々年には次女も産まれました。

気前が良かったのに...実は「貯金ゼロ」で亭主関白だった夫。“奴隷主婦”が資産を築くまで_img0
 

「運命に任せたとはいえ、夫には一番情があり、単純に好きな人だったので、結婚して子供が産まれて幸せでした。ただ結婚後、彼とは長い付き合いだったにも関わらず、驚いたのは貯金がゼロだったことです」

つい先ほど、夫の雅之さんは「キャバ嬢時代に一番お金を使ってくれていたお客さん」と伺ったばかりですが、その実情はただお金使いが荒いだけだったのです。

 

「以前はその気前の良さも素敵だと思っていましたが、夫の家計はまさに自転車操業で、結婚後もそのお金の使い方は変わりませんでした。この時は私の仕事がうまくいっていて収入もあったので、さほど気にしていませんでしたが……。

ただ彼は男気がある一方で、亭主関白で男尊女卑をする面もありました。私もサロンの経営でそれなりに多忙でしたが、家事育児はほとんどしない。昔ながらの男性の気質なのか、仕事仲間を突然家にゾロゾロ連れてきて、私がお茶や食事を用意して接待するようなこともよくありました」

女性は結婚相手を選ぶとき、無意識に父親のような男性を選びがちだとよく聞きますが、茜さんもまさにそうなってしまった印象。キャバ嬢時代とは立場も逆転したようですが、茜さんは特に抵抗することもなく、この状況を受け入れていたそうです。

「もともとの気質もあるし、体力もある方なので、仕事でも家事でも、やらなきゃいけない環境になると多少キツいこともついつい全力でやってしまうんです。今思えば奴隷主婦みたいな状態でしたけど、命令されたことに『はいはい』と答えて何でもする奴隷主婦も、実は得意でした」

キャパシティが広いのか、自分を「奴隷主婦も得意」と笑える女性はそう多くないと思います。一歩間違えれば悲痛な話になりかねませんが、茜さんは始終あっけらかんとした様子で清らかな笑顔を崩さないまま語ります。

そして、奴隷主婦として夫にこき使われながらも仕事にも励んでいた茜さんは、再び驚くことに、数年かけてなんとエステサロンの店舗数を拡大。収入もどんどん増えていきました。

「私自身のこれまでの生い立ちもあり、昔から女性の経済自立の必要性を日頃から考えていました。なので次は、1人でも多くの女性が仕事を楽しみながら経済的にも潤うような会社を作ると決めたんです」

亭主関白の夫、ほぼワンオペの家事育児に会社経営、そしてまた新しい会社を設立……。収入が増えて一休みするのではなく、この状況でさらなる挑戦をするメンタルの強さには脱帽します。

そのうえ茜さんは「次に会社をやるならやはり東京で」と、家族で都心への移住を決意。しかもこの頃、第三子の妊娠も発覚したのです。そんな中で夫を説得し、お子さんも連れて都内に引っ越し、化粧品の会社を立ち上げることになります。

「やる」と決めたらとにかく集中してしまう茜さん。引っ越しと同時に会社設立のため多忙に動き回る妻を横目に、雅之さんは新天地の東京で仕事を探すこともなく、ひっそりと家に篭るように。

ただ、第三子の出産も間近だったため、それならばと夫婦で話し合い、茜さんがさらに仕事に専念すべく雅之さんは「専業主夫」となったのです。

来週公開の後編では、しかしながら「育児ノイローゼ」となってしまった夫、夫婦関係のバランスが徐々に崩れ離婚となった経緯、そして、離婚時にネックとなった“ある問題”について教えていただきます。


写真/Shutterstock
取材・文・構成/山本理沙

 

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