介護うつとは


介護うつは、介護をしている人であれば誰でもなり得る病です。本人も自覚しにくく、発症すると完治までに時間のかかる病気で、相談者の仁美さんやそのご友人のように、辛い状況でも1人で頑張り続ける真面目な性格の人がなりやすい傾向にあります。最初は「介護で疲れたかな」程度の感覚で始まるので、発症に気づきにくい点に注意が必要です。ちなみに「介護うつ」というのは正式な病名ではありません。家族を在宅で介護する人が、悩みや不安によるストレス、心身の疲労などからうつ状態に陥ることと言われています。

仁美さんは今後のことを心配されているようなので、まずは下のセルフチェックリストで介護うつになっていないかどうかを確認してみてください。3つ以上当てはまるようであれば、介護うつの入り口に立った可能性があるかもしれません。

 


症状緩和には心のリフレッシュを


いずれ手を離れる子育てと違い、介護は先が見えません。それだけに、仁美さんや和歌子さんのように1人で抱え込むのは荷が重すぎます。介護うつは、ひどくなってしまうと介護放棄や虐待を引き起こしかねないので、家族の1人に介護の責任や負担が集中しないよう、周囲が配慮しなければなりません。

疲れたなと思ったら、適度なタイミングでレスパイトケアを行ってください。レスパイトケアとは、要介護者に介護サービスを提供している間、介護者自身が後ろめたさを感じることなく休息することです。「レスパイト(Respite)」は「休息、息抜き」といった意味があります。

まずは自らを守るためにも素直に周囲に頼り、介護保険サービスをうまく活用してください。ぜひ有効活用していただきたいのは、デイサービスとショートステイです。デイサービスは、食事や入浴介助、機能訓練などを受けられるものですが、半日預かってもらえるだけでも介護者の負担が軽減されます。ショートステイを使えば泊まりで預かってもらえるので、介護者は一晩ゆっくり眠れるだけでもリフレッシュできるのではないでしょうか。介護サービス以外では、家事代行や配食サービスも便利です。

仕事がそうであるように、介護も最低でも週に2日くらいは休息を取れることが理想です。仁美さんは、お母様が高齢とはいえ、介護が必要な状況ではないとのこと。完璧を追求しなければ、数時間の見守りぐらいはお願いできそうです。主介護者は負担が大きいので、意識的に自分の時間を作ることを心がけてください。可能であれば、外出して友人と会ったり、趣味や体を動かすことで精神が保たれて、逆に介護に対してもメリハリがつくものです。
 

 

睡眠・食事・入浴の3つはしっかり確保


介護サービスをしっかり活用した上で次にやることは、睡眠・食事・入浴の時間を確保することです。

たとえば睡眠は、12時前に寝る方が熟睡できると言われています。入浴は、身体的な疲労には42度くらいの少し熱めの湯、精神的な疲労には40度くらいのぬるめの温度がリラックスできます。日によって設定温度を変更するなどして、ご自身の生活リズムを整えてください。
 

介護うつの治療方法


それでも改善できない場合は、早めに心療内科か精神科を受診しましょう。受診するのは抵抗があるかもしれませんが、発症してしまうとご自身の努力で回復させるのはとても難しくなってしまいます。

介護うつの治療法としては、薬物療法、精神療法、休養(レスパイト)があります。治療を始めると、良くなったりまた悪化したりを繰り返しながら、徐々に回復に向かいます。

介護者が健康でなければ、介護される人も幸せにはなれません。弱った親を前にするとついそのことを忘れがちになるかもしれませんが、ご自身が倒れてしまったら元も子もないということを頭に置いて、介護と向き合っていただけると幸いです。
 


写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 


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