「嫌」という気持ちが集中力を高める!?
さて、「フキハラ」の原因にもなりうる決して喜ばしくはない「ネガティブな感情」を、何かポジティブなことに利用することはできないのでしょうか。そのヒントになりそうなのが、データ1です。
【データ1】怒りが集中力を持続させる
この実験の目的は、脳波から「嫌」と「集中力」との関係を調べることでした。被験者には、「ミスをするほど、報酬を下げる」という逆インセンティブを与え、一般的なオフィス環境でパソコンでの数値入力を行ってもらいました。しかも近くでわざと雑談したりして作業の邪魔をしています。作業は全部で15分で、作業開始の5分後から10分後までの5分間の感情を示す脳波を測定しました。
「実験に協力しているのにミスで報酬を減らされる」ことへの怒りと邪魔をされることへの怒りのどちらが大きかったのかはわかりませんが、こちらの思惑どおり、「嫌度」を示す脳波がかなり強く出ています。
そして驚くべきは、「集中度」を示す脳波のほうもかなり強く出ていることです。なぜこんなことが起こるのか、そのメカニズムは定かではありませんが、「嫌」が「集中力」を維持させるという現象は実際に起きているのです。
もちろん、「嫌」があまりにも大きすぎれば、「集中力」はかえって下がる可能性のほうが高いことと思います。でも、例えば、ライバルがいるとかミスを横から指摘されるといった「ちょっとイラッとする状況」には、集中力を高める効果はありそうです。
だとすれば、「不機嫌ノーラ」を有効に活用する方法として、「集中力への転用」というのはありなのかもしれません。これについてはさらに研究を進めていきたいと思います。
著者プロフィール
満倉靖恵(みつくら やすえ)さん:
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授/慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム取締役CTO/株式会社イーライフ取締役CTO/博士(工学)/博士(医学)。生体信号処理、脳波解析などをキーワードに、脳神経メカニズム・感情・睡眠・うつ病・認知症などに関する研究に従事。特に医工連携型研究に注力。電通サイエンスジャムと共同で、世界初の脳波によるリアルタイム感情認識ツール「感性アナライザ」を開発。リサーチ、商品開発など世界中で活用されている。心拍のみを用いた自律神経の動きに注目した睡眠の5段階解析、非侵襲ホルモン解析などの専門家。
『フキハラの正体』
著者:満倉 靖恵 ディスカヴァー・トゥエンティワン 1210円(税込)
脳波の研究を通して分かった人間の感情の驚くべき真実を伝えつつ、「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」の実態や対処法を紹介。また、実態が見えづらい「心の不調」の影響についても、脳波データから客観的に分析します。フキハラは老若男女問わず「加害者」になる可能性が高いハラスメントだけに、予防の意味でも読んでおきたい一冊です。
構成/さくま健太
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