そして次は「幸せそうで、何が悪い」です。
このエッセイは、小田急線で20代の女性が刺され、殺人未遂容疑で逮捕された男が「幸せそうな女性を殺したかった」と供述した事件を受けて書かれたもの。
その容疑者のように実際に女性を傷つけるまではいかなくても、幸せそうな若い女性への憎悪はこの社会に確実に存在します。「幸せそうで、何が悪い」というタイトルの如く、女性が堂々と、楽しい、自分が好きと言うことの大切さを訴えてくれる内容です。
幸せになる努力より、『幸せにみせない努力』を求められるのが、日本社会なのではないか。だから、私は有名人に限らずキラキラした毎日をアップする女性が大好きだ。案の定、叩かれている人も多いが、彼女たちはファイターだ。この社会で『楽しい』『自分が好き』と顔出しで発信することは、どれほど勇気がいることだろう。
女性は謙虚で控えめでちょっぴり不幸そうじゃないと痛い目にあうぞ、とあらゆるコンテンツが訴えかけてくる。(中略)この日本で、女性が幸せになろうとすること、幸せであることはもはや社会へのカウンターなのだ。(『とりあえずお湯わかせ』より)
考えてみればおかしいですよね。自分を発信する、自分を肯定する、それだけで叩かれるなんて。
女性って、謙遜して、控えめで、1歩下がるような姿勢がいまだに求められている気がします。好感度の高い女性タレントの評価で、出過ぎない、1歩下がっているみたいなところが取り上げられがち。
逆に言うと、自信があって、自分を主張して、前に出て行くタイプの女性って叩かれるんですよね。バライティーのひな壇では自己主張が強い”おもしれー”女が求められるのに、その通りやると「我が強そう」「きつそう」なぁんて言われたりする。
でも、私は自信があって、自分を主張して、前に出て行く女性が好きです。魅力的だと感じます。控えめな優等生キャラだけじゃ世の中つまらない。
マスコミや世間に叩かれがちな、いわゆるおさわがせキャラの人って、一回噂から作られるネガティブなイメージを外してみると、すっごいおもしろい(人間的魅力がある)人だったりするんです。そういうおもしろい人ほど、排除されてしまったりするんですよね。
さらに「幸せそうで、何が悪い」で印象的なのがこの文章。
自分よりずっと若い女性が野心満々なことを口にしても『絶対できる! 頑張ってね』と励ます人間でありたい。(『とりあえずお湯わかせ』より)
実際、柚木さんって、後輩である私が「〇〇するのが夢なんです」「こういうことしたいんです」という話をするといつも「できるよ!」「いいね! 応援してる」と言ってくださるんです。
これって当たり前ではなくて、同じ話をしても「えーそれは難しくない?」「この世界って厳しいからさ」「俺も昔は~」なんて遠回しに否定してきたりマウントを取られたりすることも多いです。
他人の野望を肯定する、幸せになろうことを応援するって、意外と簡単ではないのかもしれません。これも、「女性は謙虚で控えめでちょっぴり不幸そうじゃないと痛い目にあうぞ」と訴えかけてくる圧の一つなのかもと思ったりします。
自分のこうしたい、こうありたい、ストッパーがかかるとき、「幸せそうで、何が悪い」そう心の中で唱えると、勇気が湧いてくるかもしれません。
『とりあえずお湯わかせ』
柚木麻子・著 NHK出版 1650円(税込み)
はじめての育児に奮闘し、新しい食べ物に出会い、友人を招いたり、出かけたり――。そんな日々はコロナによって一転、自粛生活に。閉じこもる中で徐々に気が付く、世の中の理不尽や分断。それぞれの立場でNOを言っていくことの大切さ、声を上げることで確実に変わっていく、世の中の空気。食と料理を通して、2018年から2022年の4年間を記録した、人気作家・柚木麻子のエッセイ集。各章終わりには書き下ろしエッセイも収載。
構成/山崎 恵
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