登場人物としてただ毎日を生きていたから、自分の思い出を観ているようだった
このインタビューが行われたのは、初日を迎えた翌日。東京国際映画祭での上演からすでに話題となっていましたが、初日から1カ月が経とうとしている現在でもSNSなどで「感動した」という声が多数挙がっています。鈴木さん、宮沢さんのおふたりに、この映画がここまで話題を集めている理由がどこにあると思うかを聞いてみました。
鈴木:僕、この作品で初めて“試写”を2回観たんです。最初は、観てくださった方々みんなが感動して「すごくいい作品だ」とおっしゃってくれるんですけど、実は何にそんなに感動してくれているんだろうって分からなかったんです。こういう撮影の仕方ですので、どうも自分で客観的に観られなかったんですね。浩輔としての自分はとても苦しかったし、この撮影の間、一生懸命に……というか、普通に生きてきただけの感覚でしたし、確かにいろんなことがありましたが、それを全部映し出されて、まるで自分の思い出を見せられているような感覚だったんです。多分、お客様と同じようには観られてなかったんだと思います。
それが初日に映画館に観に行って、初めて多分1/3くらい客観的にこの作品を観ることができたと思います。「ああ、こういうことか」と。登場人物は僕たちと同じように毎日を精一杯、または何も考えずに生きているだけなんですよね。それを切り取ってひとつの芸術作品にできるというのは、映画監督って本当にすごいと思ったんです。そして、映画というメディアも。
――私たちの中にも試写を2回観て、号泣したスタッフがいます。
鈴木:ありがとうございます。そして、「なぜここまで話題になっているのか」というご質問ですが、理由はいくつかあるとは思いますが、まずはある一定以上の規模の作品でここまで“性的マイノリティ”というものにこだわって作った作品が日本ではなかったんじゃないかなということ。それから、「エゴイスト」が同性愛というテーマだけでなく、その先にあるより大きなテーマに挑んでいるからなのではと思っています。
それは決して「これはゲイの間の愛ではなくて普遍的な愛だ」と安易に一般化するということではなくて、同性愛の物語だからこそ到達できる、より根源的な人間の感情についての物語だからなのだと思います。愛とエゴやその境目、相手を受け入れること、親子の関係、自己肯定感や承認欲求……観た人すべての胸に違う刺さり方をするようないろんな解釈ができる。だからこそ、みんなが話したくなる作品になっているんじゃないでしょうか。
――宮沢さんはいかがでしょう。
宮沢:たくさん要素はあると思うんですけど、この作品は本当にいろんな形の愛を表現していて、それぞれの愛の形が観てくれた人に様々な形で共感を得ているんだと思います。もちろん浩輔さんと龍太、そして母の物語ではありますが、観ている人たちが自分たちの物語に近いものを感じるんじゃないかと思うんです。自分たちの生活とか、普段思っていることなど、そういうのがこの作品の中にはあると思うので、そういう意味では共感ができる作品です。
あとは撮り方も演じ方もそうなんですけども、役者と共にカメラが動いているので、自分たちも同じ空間にいるような疑似体験ができるのではと思います。まるで、自分たちもこのお話に関わっているんじゃないかという気持ちが感じられるというか。
鈴木:自分ごとのようにね。
宮沢:ええ。隆太の家に浩輔さんが来て、皆で食卓を囲んでいるシーンがありますが、それも自分がそこに座っているんじゃないかという感覚になれるんです。こういう作品はかなり珍しいと思うので、いろんな形でこの作品と関わることができるんじゃないかという気がします。
リラックスしたムードでこちらの質問に丁寧にお答えくださる二人。映画『エゴイスト』の魅力はまだまだありますが、前編はここまで。3/12配信の後編では、映画の大きなテーマのひとつである「愛」について語っていただきます。
インタビュー後編
鈴木亮平と宮沢氷魚が考える愛の答え「お互いNGラインをわかっているからこそ愛を交わせる」【映画『エゴイスト』】>>
撮影/shitomichi
ヘア&メイク/宮田靖士(鈴木さん、THYMON Inc.)、Taro Yoshida (宮沢さん、W)
スタイリスト/臼井崇(鈴木さん、THYMON Inc.)、庄 将司(宮沢さん)
取材・文/前田美保
構成/坂口彩
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