「あー! もう嫌だ! 嫌だ! 嫌だあ!! 上等じゃねえか! 頭かち割って死んでやるー!」
ゴミに埋もれた部屋でそう吠えた母親は、認知症だった――。認知症になった母親、そして家族との日々を綴り、「FRaU」webで大きな共感を呼んだにしおかすみこさんの連載が書籍化。『ポンコツ一家』と題された本の登場人物を、にしおかさんはこう紹介します。

「母、80歳、認知症。姉、47歳、ダウン症。父、81歳、酔っ払い。ついでに私は元SM女王様キャラの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。全員ポンコツである」。

2020年6月、たまたま立ち寄った実家で母親の異変を目の当たりにし、実家に戻ることにしたにしおかさん。現在も家族との同居を続けているというにしおかさんに、家族のこと、介護のことをインタビューでお聞きします。

 

にしおかすみこさん
1974年生まれ。千葉県出身。2007年日本テレビ「エンタの神様」で女王様キャラのSMネタでブレイク。春風亭小朝師匠の指導のもと落語に挑戦。高座名は「春風こえむ」。著書には自叙伝エッセイ『化けの皮』がある。現在はテレビ東京「なないろ日和!」など、リポーターとしても活躍中。趣味のマラソンでは、2019年にフルマラソンで3時間05分03秒、2015年能登半島すずウルトラマラソン102km女子の部にて第2位。最近はベジタブルカービングにハマりクオリティーの高さで話題になる。

 

母が「死んでやる!」と叫んだ日


――1年ぶりに実家に帰ったら、「実家が砂場になっていた」という冒頭が衝撃的でした。のちにお母様がアルツハイマー型認知症と診断されるわけですが、それまで予兆はなかったんでしょうか。

にしおかすみこさん(以下、にしおか) 何かしらのサインがあったのかもしれません。ただ、私、自分のことしか考えてなかったので、気づけないままきちゃったんです。久しぶりに実家に帰った時、あまりにゴミやほこりがひどくて。それだけでもびっくりしたんですけど、母の横柄な口ぶりが理解出来ずに、腹がたって揉めていくうちに「頭かち割って死んでやるー!」って叫んだんですね。これはなかなかの状況になっているなと思いました。

母の座っている座椅子の下のグレーのカーペットを見やった……いやにふわふわしている。何だこれは……毛足か? 転がっているペットボトルをどかしながら目を凝らす。埃のかたまりだ。積もっているのだ。雨雲のようだ。(中略)カーペットにコロコロをあてた。髪やら、ゴミカスやら、カビ、小さな虫の死骸……がべったり貼りつく。一瞬でゴミの絵巻みたいになる。ドン引く。無理だ。
(『ポンコツ一家』より)

母と父、喧嘩の無限ループ


――お父様は家の中のそうした状況に、対処されていなかったんでしょうか?

にしおか そこですよね。なんで父はあの中で暮らせるんだろうっていうね。父はサラリーマンで定年まで勤め上げてくれたんですけど、とにかくお酒が好きで大概は酔っ払っています。お金の管理も、父に任せると全部飲み代に使って暮らしていけなくなるから、私が管理している感じで。我が家での一番のポンコツは、父かもしれません(笑)。

 

――書籍では、家族と言い合いをする様子が何度も登場しますよね。二十数年ぶりの家族との同居もそうですが、にしおかさんが全部家のことを「舵取り」しなければならない大変さも伝わってきます。

にしおか 喧嘩の様子も「1年前のこと」だから、ギリギリ書けるかなあというのはあります。いつも生活を回すことにジタバタしているので、「昨日今日のこと」だと冷静になれなくて。例えば、両親の喧嘩の場合、母は1回揉めても、その記憶がぬけちゃうと、3セットくらい繰り返します。それに対し父は酔っ払っていてもいなくても「まだやるの?!」っていう終わりが見えない喧嘩をします。当時は私が間に入り、なんの解決もできず自滅していました。今は放っています。それがいいとは思っていませんが、毎日、いろいろわかりません。流されながら生きています(笑)。