ーーできないとか、ちょっと怯むようなことに面白みを感じやすいということでしょうか。

もっとちっちゃいですよ、もっともっと。例えば時代劇でお侍さんの役をやるとして、みんな腰に刀差して平然と立ってるけど、それってつまり“人を斬ったことがある人”として立ってるってことじゃないですか。

ーー言われてみれば、確かに(笑)。

僕自身人を斬ったこともないのに平然と立ってるとか、できないなって。「そうだよな、この人、腰に刀差してるんだから人斬ったことあるんだよな……斬られることも覚悟してるんだろうな」と思った瞬間に足がすくむというか、やべえ俺すごい嘘ついてんじゃんって思うじゃないですか。

そこで説得力を出すためにどう鍛錬するかということを、それこそ松方さんとかはやってるわけで。そういう蓄積がまったく抜けてる状態でカメラの前で立つってことは、正直足がすくみます。そんなちっちゃなことで足はすくむし、そういうのさえも面白いんですよね。ほんとちっちゃなことでも面白いと思います、お芝居って。

ーー自分だったら、できないこと、足がすくむようなことで面白いと思えるだろうかと、今お話を聞きながら考えていました。奥野さんのそういう、できないことを面白がれるところが、いい作品や人との出会いを呼び寄せるエネルギーになっているのかなと思います。

やっぱりみんな、不安な人を見たいですもんね(笑)。不安でいるほうが面白い気はするし、いいなって思います。その場にちゃんと立とうと頑張っている人って、いいですよね。

2023年、絶対名前を覚えるべき俳優・奥野瑛太「芝居はいつも『できない』から始まる、それが楽しい」_img6
 

奥野瑛太 Eita Okuno
1986年生まれ、北海道出身。日本大学芸術学部映画学科に在学中からインディペンデント映画に出演。入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』(2009)に出演し、シリーズ3作目『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)で映画初主演を務めた。主な出演作は、映画『37seconds』(2019)、『スパイの妻』(2000)、『すばらしき世界』(2000)、『太陽の子』(2021)、『空白』(2021)、『激怒』(22)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022)、『ラーゲリより愛を込めて』など、ドラマでは、NHK連続テレビ小説「エール」(2020)、NHK正月時代劇「いちげき」(2023)、 TBS「最愛」(2021)などがある。

 
 

<作品紹介>
映画『死体の人』

“まだ存在しない映画の予告編”で審査するユニークな映像コンテスト「未完成映画予告編大賞 MI-CAN3.5復活祭」最優秀作品の映画化。主人公の広志(奥野瑛太)は、バイトをしながら役者を続けている。有り余る芝居への情熱は映画やドラマの現場では求められず、来るのは死体の役ばかり。ある日、ふとしたきっかけからデリヘル嬢・加奈(唐田えりか)に出会い……。

出演:奥野瑛太 唐田えりか
楽駆 田村健太郎 岩瀬 亮 /烏丸せつこ きたろう

監督:草苅 勲
脚本:草苅 勲・渋谷 悠
制作プロダクション:オフィスクレッシェンド
配給:ラビットハウス
Ⓒ2022オフィスクレッシェンド

公式サイト:https://shitainohito.com/


撮影/赤松洋太
スタイリング/清水奈緒美
ヘアメイク/光野ひとみ
取材・文/山崎 恵

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