長沢蘆雪「唐子遊図屏風」より

歴史や画派にこだわらず、無垢な心で自由に絵を楽しめる、そして自分でもちょっと筆を執ってみたくなる--そんな魅力にあふれた展覧会が、府中市美術館で始まりました。

府中市美術館恒例の「春の江戸絵画まつり」、20回目を迎える今年のテーマは「江戸絵画お絵かき教室」です。展覧会の企画者・金子信久先生の新著で、この展覧会の図録図書でもある『江戸絵画お絵かき教室』を参考に、その魅力を探ってみましょう。

 

「眺める」ではなく「描く」に着目!
 

長沢蘆雪が描く雀のキリッとした表情、「かわいさ」を具現化した円山応挙の子犬、愛らしい姿かたちでけがれのない心を表した伊藤若冲の寒山拾得⋯⋯。

従来“添え物”的扱いであった「かわいいもの」を見直し、日本美術史の重要な価値観であったと再評価したことで知られる金子先生ですが、今回の展覧会は、その美術史さえもいったん忘れて、「描く」という視点から作品を楽しむというもの。「動物」「人」「景色」「花」と江戸絵画の四大テーマを扱った第1章でも、かわいい動物を描くために画家が凝らした創意工夫を徹底解説しています。

目が合ってしまう蘆雪の「雀図扇面」   
あいかわらずかわいい応挙の「雪中狗子図」

江戸時代の絵は、何に描かれている? 第2章ではそんな、知っているようで知らない、江戸絵画の「画材」に着目します。紙や絹、墨、絵具などの多様な画材を紹介するほか、「筋目描き」や「たらし込み」「裏彩色」など、江戸絵画好きならば、一度は耳にしたことのある技法についても、作例とともに探求。「金」を用いた技法の多彩さにも心を奪われます。表具師の仕事を紹介するコーナーでは、実際の掛軸の表具をあつらえ直すというユニークな企画もあり、充実の内容です。

『江戸絵画お絵かき教室』p.92-93 絵具の作り方も解説しています

江戸時代の画家たちがどうやって学んだのか、に迫るのが第3章。中国画や雪舟、オランダの本など、さまざまな絵を「お手本」にしていたことがわかります。

最終第4章では、その江戸絵画に潜んだヒントが、私たちの絵を描く楽しみ、絵を見る楽しみを拡げてくれると結びます。縦長の画面に象の一部だけを描いたり、自由な組み合わせで水中を描いたり。空を大きく描く工夫、浮世絵の劇画的表現などなど、参考にしたい工夫がいっぱいです。

『江戸絵画お絵かき教室』p.230-231 劇画チックな絵は、人気の歌川国芳。

ここまで、さまざまな江戸絵画を見てきましたが、最後のセクションのテーマはなんと、「お手本はいらない」。基本や定石などお構いなし、仙厓や蕪村、蘆雪などが切り拓いた自由な境地の作品は、見るだけで痛快そのもの。ここには、金子先生の紹介で、「画伯」としてすっかり有名になった三代将軍・徳川家光公の「兎図」や「竹に雀図」も登場します。

「家光リアリズム」の極致「兎図」


江戸絵画を見て、実際に描いてみよう!
 

第1〜4章で紹介された内容を実践するための「お絵かき教室」のコーナーも。

現代の画材を使って牡丹のぬり絵にチャレンジしたり、応挙の子犬の輪郭線を学んだり。江戸絵画の大ファンでもある、漫画家・イラストレーターの長田結花さんが指南します。

『江戸絵画お絵かき教室』p.36-37 漫画家・イラストレーターの長田結花さんの「お絵かき教室」のページでは、「森狙仙の鹿」をフェルトペンで描くレッスンも

さまざまな側面から「描く」ことに迫る展覧会。そしてそれは従来の価値観から「見ること」を開放する、自由な展覧会です。
 

春の江戸絵画まつり「江戸絵画お絵かき教室」展

これまでさまざまな切り口で江戸時代の絵画を紹介してきた府中市美術館が、「描く」ことに着目した初めての試みです。

会期:2023年3月11日(土)~5月7日(日)
※前後期で一部展示替えを実施。
前期:3月11日(土)~4月9日(日)
後期:4月11日(火)~5月7日(日)
会場:府中市美術館(東京都府中市浅間町1の3)
開館時間:午前10:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(5月1日は開館)

 

<書籍紹介>
『江戸絵画お絵かき教室』

府中市美術館・著 2970円(税込) 講談社・刊

府中市美術館「江戸絵画お絵かき教室」展公式図録。若冲から応挙、蘆雪、国芳、家光まで。江戸時代に学ぶ自由で楽しいお絵かき指南書。

 

チケット読者プレゼントのお知らせ
5組10名様に「江戸絵画お絵かき教室」展の鑑賞券をプレゼント

東京・府中市美術館で開催されている「江戸絵画お絵かき教室」展(2023年3月11日~5月7日)の鑑賞券をプレゼントいたします。

応募締め切り:4月3日(月)〜11:59まで
●応募にはmi-mollet(ミモレ)の会員登録(無料)が必要です。
●プレゼントのご応募は、1回までとさせていただきます。
●当選者の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

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構成/からだとこころ編集チーム