たとえ時代が大きく変わろうとも。小さな変化を作って今日を生きている
時代ものの映画が描くのは、多くがお侍や武家の世界が中心ですが、ここに描かれるのは庶民の世界ーーもっと言えば、江戸の中心部からも外れた場所です。「安政」という時代は、ここからいわゆる幕末の激動が始まる時代で、そのことは、佐藤浩市さん演じる「お役御免」で長屋暮らしをする浪人と、その娘で黒木華さん演じるおきくの存在によって、それとなく示されます。
そんな時代の変わり目にあっても、なくてはならない存在である「汚穢屋」に対する人々の態度、敬意のなさは、まったく変わることはありません。ただひとり、武家社会の大上段な大義に巻き込まれ、深い傷を負ったおきくを除いて。クソのような世の中にある3人の在り方とつながりに、かすかな希望が見えます。
池松:時代の変わり目であることに加えて、感染症(ペスト)についても触れていて、かなり現代的なところにアプローチできています。
寛一郎:脚本もそう書かれていましたが、世界には、自分の意思ではどうしようもない、抵抗不可能な暴力性みたいなものってあるじゃないですか。それを抱えながら生きていくということについては、今の時代の僕らも、この時代の「汚穢屋」も、本質的に変わらないかなと思いました。
池松:この映画が思想としているのは、底辺から世界を見るという試みなんです。だからこそ引き受けました。でも、そこを見てくださいと言うつもりはありません。ただ、物語として、可視化されない底辺の底辺で搾取される人たちの、それでもたくましく、瑞々しく生きようとする姿に惹かれました。
寛一郎:ひどい言い方かもしれないけど、たとえ時代が大きく変わろうと、末端の人間の生活は大して変わらないんです。世の中を動かす武家の人間にはその変化の大きさがわかっているけれど、底辺で生きている人間は何が起きているのかわかってないことも多いと思うんです。それでもーー半径5mの中かもしれないけど、小さな変化を作って今日を生きている、そういうことなのかなと思います。
<インフォメーション>
映画『せかいのおきく』
2023年4月28日(金)GW 全国公開
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
©2023 FANTASIA
脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
製作:近藤純代 企画・プロデューサー:原田満生 音楽:安川午朗
音楽プロデューサー:津島玄一 撮影:笠松則通 照明:杉本崇 録音:志満順一 美術:原田満生
美術プロデューサー:堀明元紀 装飾:極並浩史 小道具:井上充 編集:早野亮 VFX:西尾健太郎
衣装:大塚満 床山・メイク:山下みどり 結髪:松浦真理 マリン統括ディレクター:中村勝
助監督:小野寺昭洋 ラインプロデューサー:松田憲一良 バイオエコノミー監修:藤島義之 五十嵐圭日子 製作:FANTASIA Inc./YOIHI PROJECT 制作プロダクション:ACCA
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア ©2023 FANTASIA
撮影/田上浩一
ヘア&メイク/NORI TAKABAYASHI(寛一郎さん、YARD)、
ネモト(池松さん、ヒトメ)
スタイリスト/坂上真一(寛一郎さん、白山事務所)
取材・文/渥美志保
構成/坂口彩
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