誰の人生にも「物語」があります。
人は、成仏できない物語があると辛い気持ちになり、前向きな物語を描けないと落ち込んだりモヤモヤしたりします。
この連載では、心理学者でキャリアコンサルティング技能士の杉山崇先生が、「物語」という名のライフキャリアを整える方法を皆さんにお伝えしていきます。
今回は成仏という言葉を使わせていただいています。ちょっと重たい響きがあるかもしれませんね。ですが、実はこの言葉の出どころは、とある素敵な女優さんです。
この成仏を巡るお話は公表されているものではありません。そこで、ここではお名前は控えさせてもらいますね。
人気女優が語った、成仏させるという演技論
ただ、多くの人が好印象を持っていて、迫力のある演技で存在感が光る素敵な方なので、本当に各方面でご活躍です。さあ、あなたはどなたを連想したでしょうか? 答えを知りたい方は、いずれあなたとご一緒する機会にこっそりお知らせしますね。
さて、成仏のお話に戻ります。私がこの方から成仏というお言葉をいただいたのは、ある難しい役柄を巡って対談をした時でした。
役柄を巡るお話から演技論のお話に派生しました。そこで、「役を演じきれなかった」という念が残ると、その役がご自分からなかなか出ていかない……、次の役もできない……、というお話をうかがいました。そして、「だから、どんな役であっても成仏させるつもりで、全力で演じきっている」とお話になりました。
その目は本当に誇りに満ちて、キラキラと輝いていました。女優さんのお名前を出せないのは残念ですが、私はその方の迫力のある演技の理由がわかった気がしました。
成仏できない恋人との物語
さて、なぜこの連載でこのようなお話をしたか、疑問に思われたかもしれません。女優さんを語る連載ではありませんものね。
ですが、この女優さんの成仏というキーワード、実は人生という物語を整えるためにもとても大事なものなのです。その大切さをお伝えするために、ちょっと古い映画をご紹介したいと思います。
その映画とは、1990年の映画『ゴースト~ニューヨークの幻』。大ヒットした映画ですのでご覧になった方も多いのではないでしょうか。かく言う私もその一人です。
そのあらすじをご紹介しましょう。ニューヨークを舞台にデミ・ムーア演じる美しい陶芸家のモリーと、パトリック・スウェイジ演じる銀行員のサムの同棲カップルが主人公です。2人は仲睦まじく、仕事も順調、新居に引っ越したばかりでこの先はバラ色しか見えません。
しかし、仕事を通して不可抗力な事件に巻き込まれたサムは不意に暴漢に殺されます。事態を受け止めきれないサムは、天国からの迎えを拒否します。そして、モリーのそばにゴーストとしてとどまり続けます。
やがて、サムは自分が巻き込まれた事件がモリーの災いになることを知り、モリーを救うのです。その中で、ゴーストとしてのサムの存在がモリーにもわかり、最後のお別れの時間を過ごしたあとサムは天国へと導かれるのでした。
ストーリーはポジティブではないのに感動を呼ぶ
実は当時の私は恋愛映画には全く興味がない男子大学生でした。なので、恋人を失った女性と幽霊彼氏のお話……というストーリーをネガティブに感じていました。そういうわけで、この映画を観るつもりには全くなりませんでした。二十歳そこそこの男子ですので、お許しください。
ですが、みんなが「この映画は観るべき!」と口を揃えて言うので、試しに観てみたところ……恥ずかしながら大いに感動しました。エンディングで「Unchained Melody」が流れる頃には大号泣です。私にとっては食わず嫌いを反省した映画となりました。
この映画、物語そのものに前向きな要素はありません。サムは事件に巻き込まれて命を落とし、モリーとの光り輝く今も未来も永遠に失われたまま終わります。
なのに、なぜ、この映画はみんなが「観るべき!」と言うほど、大学生の鈍感男子だった私が泣くほど、私たちを感動させるのでしょうか?
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