実家じまいの現実
親が他界したり、施設や病院へ入ったことをきっかけに、誰も継ぐ予定のない実家を処分する「実家じまい」。スムーズに処分できればいいですが、別荘や賃貸用の住宅を除くと、長期間誰も住んでいない空き家は2018年時点で全国に349万戸あり、高知、鹿児島、和歌山、島根などの6県で総数の10%を超えています。
空き家は地方だけの問題だと思われがちですが、実は全国最多は約4万9000戸の空き家がある東京都世田谷区だということをご存知でしょうか。最近は、都内近郊の戸建も売るなどして手放すケースが増えています。
実家を手放すことになった時、まず考えるのが第三者に売ることでしょう。しかし辺鄙な場所にある場合は買い手がつかないかもしれません。そもそも実家が売れるのかどうか知りたいという方は、まず以下のような査定サイトで相場を調べてみてください。
実家を空き家にしておくデメリット
相談者・尚子さんの話にあったように、実家を空き家にしておくと固定資産税や場合によっては水道・電気代、火災保険などの維持費がかかり、現地に行くまでの交通費を含めると年間50万円ほどに膨れ上がるケースも。また、お金の問題だけでなく、放火や空き巣といった犯罪のターゲットになる可能性も増えますし、使用していない家は当然劣化も早く進みます。
思い入れのある実家をすぐに売却する決断ができない場合は、賃貸に出すという選択肢もあります。収入を得られることで実家の維持費もまかなえ、人が住むことで不審者対策にもなります。空き家のままにしておくよりも、近隣の方への不安や迷惑も減らせるでしょう。
ただし、賃貸に出す場合はリフォームやクリーニングなどで数百万円単位の費用がかかるため、多くの方が断念するのが実情です。駅近など、需要があれば借り手はすぐに見つかるかもしれませんが、貸主都合での解約ができず、賃貸管理の手間が増えることは否めません。どうしても貸したい場合は倉庫として貸す方法もあるので、併せて検討するのも1つの案です。
売買は国交省公認の空き家・空き地バンクで
空き家を売るにしても貸すにしても、引き取り手が見つからないことには始まりません。賃貸や売買をする際、普通は地域の不動産会社に依頼しますが、低額な物件は成約しても仲介手数料がわずかにしかならないため、引き受けてくれないこともあります。そこで行いたいのが空き家バンクへの登録です。
増加する空き家対策のため、自治体は独自で空き家バンクの運営を開始し、2015年には約4割の市町村が設置するまでになりました。ところが、分かりづらい、自治体によって検索方法が異なるといった課題があったため、国土交通省は自治体を横断して検索できるように全国版空き家・空き地バンクを構築。公募によって選ばれた「LIFULL HOME’S」と「アットホーム」が、2018年より運用を開始しています。
自治体へのアンケート調査によると、2023年3月末時点で成約件数は1万3600件。参加する自治体の数も年々増加し、今後も増え続けることが予想されます。
他にもまだある空き家のマッチング
国が主体となる空き家バンクだけでなく、NPOや民間もさまざまな空き家関連サービスを展開しています。たとえば、空き家に関する相談事がある方は、「NPO法人 空家・空地管理センター」を利用してみてはいかがでしょうか。こちらは非営利活動団体が行う空き家に関する相談窓口で、国交省も推薦しています。
他にいくつか代表的なものを紹介しましょう。
不動産をあげたい人と欲しい人をつなぐ不動産マッチング支援サイト。掲載物件はすべて0円の無償譲渡物件です。
■ 空き家ゲートウェイ
売り手と買い手が直接取引する仕組みで、100均(100円、100万円のいずれか)という価格設定で話題に。
■ 家いちば
売りたい人と買いたい人が直接やりとりをする掲示板で、不動産会社が扱わないゴミ屋敷や廃墟となった病院、工場、旅館なども掲載されています。
賃貸なら「マイホーム借上げ制度」も
そのほか、国交省が支援する「一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)」による「マイホーム借上げ制度」というものもあります。こちらはマイホームをJTI経由で賃貸に出し、その期間中はJTIから賃料が支払われるというもの。特にシニアだけを対象にしているわけではなく、相続した空き家を所有していたり、海外転勤で自宅を空けることになった場合など、50歳未満の方も利用が可能です。
ただし、1981年以前の旧耐震物件はほぼ100%耐震改修工事が必要ということから初期費用がかかったり、賃料も相場よりかなり安いなど、デメリットも多く利用者数は低迷しています。
空き家は2023年中に売るべき理由
もし実家の売却を考えているのであれば、ぜひ2023年中の売却を目指してください。現在、相続や遺贈によって取得した家屋や敷地を2023年12月31日までに売却すれば、その売却にかかる譲渡所得(儲け)から最高3000万円まで特別控除できる「空き家特例」が設けられています。細かい適用条件はあるものの、合致した場合は約600万円分の節税になります。期限は延長される可能性もありますが、早いに越したことはありません。3000万円控除についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、該当しそうな方はぜひご覧ください。
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また、2024年4月1日以降は任意だった相続登記が義務となり、相続したことを知った日から3年以内に相続登記申請をしなければ、正当な理由がない場合は10万円以下のペナルティが科されることになりました。これまでは、亡くなった親から不動産を相続しても相続登記に期限はなく、放置しても罰則がなかったため、名義が故人のままというケースも少なくありませんでした。今後は曖昧だった相続登記が義務化されることで、国は九州本島の大きさに匹敵するとも言われる所有者不明の土地を解消する意向です。
思い出が詰まっているからこそ手放す決断をしづらい実家の存在。親の三回忌や七回忌などの節目を機に前に進む方も多いようですが、誰も住まなくなった家の維持には手間とお金がかかり、先延ばしすればするほど問題は大きくなるということを頭に置いておいてください。
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子
前回記事「恋愛や窃盗も...?やっと入った老人ホームでトラブル発生!終の住処を強制退去にならないために覚えておきたいこと」>>
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