経験値を積んだぶん、覚悟が必要


世界的ロックバンドのビートルズは、もともと“5人編成”だった――。ビートルズの創成期を描いた1994年公開の伝記映画『BACKBEAT』をイアン・ソフトリー監督が自ら舞台化した作品が、この『BACKBEAT』です。

結成当時“5人編成”だったビートルズ。この作品では、当時のベーシストであり、画家としての才能を発揮しながらも、メジャーデビュー前にバンドから脱退してしまうスチュアート・サトクリフ(戸塚祥太)と、彼のセンスに惚れ込み、ビートルズの核をなす学生時代からの親友ジョン・レノン(加藤和樹)を中心に、ジョージ・ハリスン、ポール・マッカートニー、ピート・ベストの5人が結成したばかりのビートルズとして、ハンブルクで巡業を行った時代を描いています。また本作では20曲を超える楽曲が舞台上で生演奏されるのも見どころ。粗削りながらもエネルギーに満ちあふれ、ひたすらに成功することを夢見ていた初期のビートルズの音楽を思う存分楽しめます。

2019年に上演されたこの作品が、この度満を持して再演! 初演時に見事“令和のビートルズ”を再現したメンバーが再集結して、熱いステージを魅せてくれます。今回は舞台やドラマ、映画と幅広く活躍しながら、歌手としても活動を行うジョン・レノン役の加藤和樹さんにインタビュー。歌手活動を行いながら、ドラマや映画、舞台、そしてミュージカルへの出演が続く加藤さんが「ほかの舞台とは違って、とても特別」と語る『BACKBEAT』の魅力、そして天才的ロックスターだったジョン・レノンを演じる心境などをお伺いしました。

 
 

――再演おめでとうございます。改めて、再演の話が決まったときのお気持ちを教えてください。

加藤和樹さん(以下、加藤):単純に嬉しい気持ちがありましたが、あとは覚悟が必要だなとも思いました。初演は勢いでイケた部分がありましたが、そこからもう4年も経っていますから。今回は経験値を積んだ分、フレッシュさを失う可能性もあります。期待と不安が入り混じっています。

 

――『BACKBEAT』ではジョン・レノン役を務める加藤さん。有名過ぎるほど有名な人物ですが、前回ジョンを演じたことで、彼に対する新しい見方や発見はありましたか?

加藤:この『BACKBEAT』という作品はビートルズが5人だった頃の話です。その5人目の人物であるスチュアート・サトクリフ(以下、スチュ)という人物が大切な存在で、ジョンに大きな影響を与えたというのを知ったことが、やはり一番大きいですね。もしスチュが亡くなってなかったらどうなっていたんだろうと、初演が終わったときに考えました。

初演の稽古に入る前にリヴァプールに行ってお墓参りをしたり、彼らが歩んだ軌跡をたどる旅をしたんですが、正直、そのときにはそこまで感じなかったんです。でも、実際に舞台に立ったあとは、まるで他人事とは思えないほどの気持ちになりました。演じたからこそ分かる彼らの苦しみや痛みみたいなものが味わえたのは、新たな発見でした。

――ジョン・レノンはとても穏やかでオトナなイメージの人物ですが、加藤さんにとってジョンはどんな青年ですか?

加藤:当時はすごく子どもだったんだと思います。絶対的な存在だったけれど、ある意味ワガママで、冷めている部分もあって。機嫌次第でしょっちゅう色々なことが変わるし……。ジョンとスチュはふたりでひとつだったんです。でもスチュがアストリッドと出会ったことで音楽ではなく絵の才能に目覚めていく。

ジョンはスチュを失うのが怖かったと思いますし、スチュがいなくなることで自分が自分でなくなるような恐怖もあったはず。そういう心の揺れが、表には見せないけれどバレバレだよって(笑)。表情や行動に出てしまうのが子どもっぽいんだなという印象です。根本は寂しがり屋だったんじゃないかな。

――お稽古場で新たな発見はありましたか?

加藤:前回とはやはり違ってきたところがあります。5人の関係値が変わったわけではないのですが、芝居のテンポ感などが変わってきているので、それぞれの感情にも新たに変化が起きています。

その変化を通じて、ジョンがよりスチュへ執着心を持っているような、初演のときには感じられなかった心の動きが現れたりしていますね。僕だけというよりは、ほかの皆の心の動きみたいなものも変わってきているので、それに応じてジョンの気持ちも変化してきたという感じなんです。