大きな会場でライブできなければ「成功」とはみなされない評価基準。CDの大量買いでチャートハックできるという、ファンの競争心や射幸心を煽るビジネスモデル。そうした音楽業界の仕組みに取りこぼされ、次々と消えていく才能たち――。SKY-HI(スカイハイ)さんの『マネジメントのはなし。』では、音楽シーンの内側にいるからこそ感じる「このままではいけない」という強烈な危機感が何度も綴られています。

そんな業界の仕組みを根本から変えようと、SKY-HIさんは私財1億円を投じてマネジメント/レーベルの「BMSG」を設立。舞台に立つアーティストとして、舞台に立つ才能を見守る経営者として、業界に本気で改革を起こそうと考えるSKY-HIさんにインタビューしました。若い才能を伸ばし、頼られる年長者としてサポートし、チームを強くしていくにはどうしたらいいか――そのヒントが満載です。

 

SKY-HI(スカイハイ)さん
1986年12月12日生まれ、千葉県出身。2005年、AAAのメンバーとしてデビューし、同時期から「SKY-HI」としても活動をスタート。以降、ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーとして幅広く活動。2020年にはBMSGを設立し、代表取締役CEOに就任。第1号アーティストとしてNovel Coreと契約したのに続き、2021年にはオーディション「THE FIRST」をスタート。BE:FIRSTを瞬く間にトップスターの座へ押し上げるなど、音楽界に新風を送り込む存在として、その手腕に注目が集まる。

 


不安に苛まれた空気は、若手まで殺伐とさせてしまう


――SKY-HIさんはラッパーとしても、AAAの日高光啓さんとしても活躍されていますが、BMSGを設立した背景として、「30年前の仕組みのまま」の音楽業界を変えたいという思いがあることを本の中で綴られています。才能のあるアーティスト仲間から「居場所がない」という相談を持ちかけられることがどんどん増えた、というくだりにも、何か深刻な状況が垣間見える気がしました。

SKY-HIさん(以下、敬称略) 音楽業界に限らず、今の日本の状況って結構まずい気がするんです。僕は今36歳ですが、同世代でも老後を不安視する声が少なくありません。芸能の世界は特にセカンドキャリアや老後の働き方が描きづらいのもありますが、日本の組織において自分の意見を述べたり、失敗できる風土だったり、マネジメント的な言葉でいうところの心理的安全性が担保されていないこと、端的に言えば夢を見づらい風潮や環境が大きいのではと感じていて。

僕が長年携わっている芸能の仕事においては、大体みんな30歳を超えたあたりから、異常なほどに“将来への不安”が漂ってくるんです。セカンドキャリアを作るのに必死で本業が二の次になり、「あれ、あいつリハーサル来てたっけ?」ということも。若手を指導する機会も増える僕ら30〜40代が、本業が疎かになるほど余裕がなくなったり夢を見られなくなれば、育てられた若者たちまで殺伐としてしまう。BMSGを設立したのは、そんな悪循環を少しでも食い止めたいという思いもありました。

関連記事
「時代が動く音が聞こえる...!」BE:FIRST新曲にSNSザワつく。彼らは「Mainstream」で新しいカルチャーを作るのか

「安心できない」「居場所がない」を取り除くために

 

ーーBMSGのステートメント(理念)は「才能を殺さないために」ですが、本を読んでいてもその点に心を砕いていらっしゃるのがわかります。

SKY-HI 「安心できない」「居場所がない」ことに起因するストレスや苛立ちって、横にどんどん伝播していくんですよ。逆に、安心感や安全性も伝播していく。だから、若い子たちには何を話すにせよ、安心や居場所を担保することが重要だと、経営者になって改めて感じているところです。

――BMSG立ち上げまもなくスタートしたボーイズグループのオーディション「THE FIRST」を見ても、ローティーンから20代まで、SKY-HIさん自らが参加者一人ひとりに丁寧にアドバイスされている姿が印象的です。

SKY-HI オーディションに参加してくれる子たちは、応募して、準備して、わざわざ会場まで足を運んでくださっているわけです。だけど、こちらの都合でお断りしなければならない人も出てきてしまう。それならせめて「来てよかった」と思ってもらえるよう、僕が素晴らしいと思った点、改善した方がいいと思った点は、最低でも一つずつ伝えようと考えていて。これは、初めて「ジャッジする側」に立たせていただいた僕が最低限すべき努力だし、基本的なルールとしていたところです。

関連記事
「争う気はない」BE FIRST Mステ出演の裏側にあるSKY-HIの「優しいリベンジ」

次ページ▶︎ 「好き」だから「嫌われたくない」。そんなコミュニケーションがあってもいい

【写真】経営者として、アーティストとして。音楽業界の変革に挑むSKY-HIさん
▼右にスワイプしてください▼