湧き上がる不満は「愛で相殺されていた」けれど…
自分の子どもではないとはいえ、プロポーズまでして同棲している女性の子どものお世話を時給で引き受けるというのは衝撃です。
ちなみに家のローン以外の費用とは、ざっくり大きなもので水光熱費、食費、車の維持費、消耗品など。その他の雑費もすべて珠美さんが払っていたため、金額的には家のローン代を上回りました。もちろん、家事育児も珠美さんの担当です。
「正直なところ、特段のトラブルはないものの、彼と子どもたちの関係もうまくいっているとは言えませんでした。彼に悪気はないようでしたが、昭和の価値観を無理に押し付けるというか、特に長男には厳しく接しがちで。だから変に子育てに期待するよりも、時給を払って割り切る方がある意味楽でした。
今思えば、色々とフェアじゃなかったと思います。特にケチな面はしんどいことも多かった。なのに、その時は彼を愛していて、たびたび湧き上がる不満は愛で相殺されてたんです。そんな状態で子どもたちが思春期に入り、少し寂しくなったこともあって……また子どもが欲しいと思ってしまったんです。それが運の尽きだったのかもしれません」
客観的に状況を伺うと、たしかにこのタイミングで勝也さんと子どもを作るのは、明らかに珠美さんの負担が増える印象。けれど、一部の女性はどんなに負担がかかっても、愛した男性にはとことん尽くしてしまう、盲目になってしまうことがあります。さらに根っからの子ども好きであった珠美さんは、当時40歳で妊娠・出産に至りました。
ちなみにお二人は籍は入れていませんでしたが、勝也さんはお子さんは生前前認知をし、それに伴い正式に事実婚となりました。
そしてこのとき、産後のただでさえ不安定な時期に夫婦を襲ったのは、新型コロナウィルスの猛威でした。
「ご存知の通り、コロナの影響で飲食業界は大ダメージを食らいました。それまではお店の経営やケータリング事業もかなり順調でしたが、緊急事態宣言が出てから数ヵ月は大赤字が続いて……この先どうなるのかもわからずに不安な日々。
一方、会社勤めの夫はフルで在宅勤務になりましたが、お給料は減らず。また家にいるため、朝晩に加えて昼食も私が用意することになりました。たぶんそれまでの私だったら、昼食作りの負担が増えるくらい平気でこなしていたと思います。でも、人ってお金がなくなると、心の余裕もなくなるんですよね」
仕事はキャンセル続きの大赤字、それでも日常の出費が止まりません。緊急事態宣言中、珠美さんの収支はマイナス400万円となった月もあったと言います。
「そんな中、水光熱費の請求書、約4万円がダイニングテーブルに置いてあって……ふと彼に言ってみたんです。『コロナでけっこうお金がキツいから、これ、払ってもらえない?』と。特に何かを深く考えた訳でも、どうしても4万円が払えない訳でもなかった。ただ赤字が続く状況の中、何となく口から出た言葉でした」
しかしながら、この一言は『究極のケチ』である勝也さんにとって地雷だったのです。当たり前に要求を跳ね除けたどころか、珠美さんを激しく罵り始めました。
「よくわかりませんが、『家のローン以外は絶対に払わない』という彼のルールを侵されそうになったのがよっぽど気に障ったんでしょう。それは俺が払うものじゃない、義務もないと彼は顔を真っ赤にして激怒。さらには、『どうしてお前はこういう状況に備えてリスクヘッジをしておかなかったんだ』と長い説教が始まりました」
世界を襲った未曾有の事態、しかも最もダメージが大きかったと言える飲食業の珠美さんに、リスクヘッジも何もないのでは……と思ってしまいます。それどころか、勝也さんは離婚直後は金銭的にかなり珠美さんにお世話になっていたはず。その総金額に比べれば、4万円は小さな額です。
「あの瞬間、いろんなものがサーッと一気に冷めました。それまでは違和感や不満にずっと目を瞑ってきたし、育児に仕事、彼の世話をするのも大変だったけど苦ではなかった。彼のことが好きだったし、家族として仲良くしたかったから。でも、何かがプツンと切れてしまったんです。
だったら在宅勤務中のランチ代は払えと私が言い返し、醜い怒鳴り合いの大喧嘩に発展。最後は長男長女が止めに入るほどでした」
愛情深い女性は、愛さえあればどんな苦境も受け入れることができるし乗り越えられる。けれど裏を返せば、愛がなくなればそれは成り立たなくなるのです。
愛が冷めてしまった珠美さんはこの4万円がきっかけで離婚を決めましたが、夫が素直に別れるはずもなく、再び泥沼劇が始まります。
来週公開の記事では、離婚の際にお金と妻に異常に執着した夫の奇行、そしてその間に出会った16歳年下の男性についてお話いただきます。
取材・構成・文/山本理沙
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