世の中が「お母さん」への感謝の気持ちであふれる「母の日」。無事に贈り物が届いて「ありがとう」の電話がかかってきた方、コロナが少し落ち着いたので一緒に食事をするという方、ご自身のお子さんからプレゼントを受け取った方――。色々な形での「ありがとう」が行き交う温かな1日ですが、もしかしたら、どこか居心地が悪いような、居場所がないような思いをしている方もいらっしゃるかもしれません。

青木さやかさんの著書『母が嫌いだったわたしが母になった』は、母親との確執を乗り越えた青木さんが母となり、娘さんを女手一つ育てる中で得た気づきを綴ったエッセイです。母親が嫌い、母親が許せない……そんな母親への憎悪が少しずつ雪解けていく様を描いた『母』から約2年。娘さんと過ごす何気ない日々を通して、「母親になった自分」と「母親を嫌悪していた自分」の両方に眼差しを向ける今作は、母の日が少しだけ居心地が悪い人にとって、ほっと一息つかせてくれる場所かもしれません。今回は特別に、その一部を抜粋してご紹介します。

「母親という言葉を口にするのも耳にするのも、避けたかった」子を持つ母として・亡き母の娘として今思うこと【青木さやか】_img0
 

青木さやか(あおき・さやか)さん
1973年愛知県生まれ。大学卒業後、フリーアナウンサーを経てタレントの道へ。「どこ見てんのよ!」のネタでバラエティ番組でブレイク。2007年に結婚、2010年に出産。2012年に離婚。現在はバラエティ番組やドラマ、舞台などで幅広く活躍中。著書に『』(中央公論新社)、『厄介なオンナ』(大和書房)がある。

 

 

過去に戻れたとしても「わたしは親になることを選択する」


青木さんはエッセイの中で、世界中で様々な議論を巻き起こした『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト 著、鹿田昌美 訳/新潮社)に触れ、この本の核心でもある「母親になって後悔しているか」という問いかけに、果たして自分はどうだろうか? と向き合ってみます。

妊娠中は、「『子どもってかけがえのない宝です』と言うのが当たり前だと既に決まっている社会の中で、生まれてくる子どもをわたしは本心から可愛いと思えるのだろうか、と、心配だった」と本心を語る青木さん。本の中で23人の母親たちが吐露する「母親はこうあるべきという社会通念」への息苦しさに共感しながらも、自分が「母親になったこと」については、こんなふうに伝えます。

 わたしも親になり、だいぶ変わろうと努力ができた。相手のことを考える努力ができるようになり、どちらかだけが正しい、ということはないと思った方がいい、と考えられるようになった。わたしは正論を堂々と相手のために良かれと思って旗を振るようなタイプだったが、旗をおろした。この先よほどのことがないと、旗を振ろうとはしないだろう。人生というものが何かの課題を学ぶ旅だとしたら、わたしは親にならないと、その課題を学べない人間だったのかもしれない。
 過去に戻れたら親になる人生を選択しない、という人もいるだろう。
 自分で人生が選択できるなら、わたしは親になることを選択したい。今更、娘に出会えなかった人生は考えられない。もちろん、過去に戻ったら生まれてくるのがこの娘じゃないかもしれない。だとしても、子どもと過ごす人生は、愉快だと思う。想定外なことだらけだし、思い通りにならないと思うから。
 それにわたしとずっといてくれて、わたしを必要とし、一番愛してくれる人がいるって寂しさが減る。

――『母が嫌いだったわたしが母になった』より