平凡な人生や自分がつまらない、と思ってしまったことありませんか? 平凡とは、「これといったすぐれた特色もなく、ごくあたりまえなこと」という意味で、人生や自分に物足りなさを感じたり、不平不満を口にしたりすることもあるでしょう。一方で、「足るを知る」という言葉があるように、平凡と思っていても、自分の心の持ちよう次第ということもあります。週刊ヤングマガジンで連載中の『サツドウ』の主人公・赤森六男(あかもりりくお)は、むしろ平凡になりたいと強く願う青年です。なぜ彼は、「平凡」を求めているのでしょうか?

『サツドウ』(1) (ヤンマガKCスペシャル)


道場破りに来た屈強の男と戦うのは、小さな少年?


物語が始まるのは15年前のこと。顔に傷のある屈強な男が、夜にとある道場に向かいます。中には自分の息子たちに武術を指導する男性の姿がありました。屈強な男の目的は、「時代錯誤の道場破り」。しかし、指導者は末っ子の少年を紹介し、「稽古相手になってもらえないか?」と一言。

 

馬鹿にされたと思いつつも、その少年と戦うことに。明らかに体格やパワーの差があるにも関わらず、少年は男の攻撃を巧みにかわし、的確に攻撃を繰り出し、あっという間に男を倒してしまいました。総合格闘家の男は“最強”を目指して己を鍛え上げ、道場破りに来たはずなのに、この少年の前ではあまりにも無力。少年は古くから代々続く「背神活殺流拳法(はいしんかっさつりゅうけんぽう)」という古流殺法術の家に生まれた者だったのでした。

 

時は現代に戻り、舞台はとある製菓メーカーのオフィス。赤森六男という24歳の青年が忙しそうに仕事をしていました。気弱そうな六男は、他の社員から体よく仕事を押し付けられていたのです。あまりにも忙しすぎて、六男は隣の席にいる新入社員・柏カエデ(22)の指導役もろくにできていない状況です。

 


気弱なサラリーマン、オヤジ狩りを目撃してしまう。


ひとり会社に残って終電ギリギリまで仕事をしても仕事が終わらず、自宅に持ち帰ってのサービス残業も常態化していました。帰りに立ち寄った公園で、六男は若者が中年男性をボコボコにする「オヤジ狩り」を目撃します。そのままおとなしく場所を変えようと立ち上がった六男の前に立ちはだかったのが、オヤジ狩りをしていた若者たち。目撃した六男に絡み、金まで要求してきたのです。

 

彼らより小柄で見た目はかなり弱そうな六男に対して、「テメェ殺すぞ」と胸ぐらを掴む男。絶体絶命と思いきや、「そんなに簡単じゃないよ 人を殺すって……」と六男がつぶやいた瞬間、男を制圧。残りの男たちもあっという間に倒してしまうのです。会社でのひ弱っぷりがまるで別人のよう!

 

彼こそが、15年前に総合格闘家を倒した少年で、幼少期から彼に殺人術を叩き込んだ父をして、「殺しの才に恵まれた男だ」と言わしめる存在だったのです。

 

六男は、翌日も普通に出社し、口の悪い先輩にからかわれ、カエデにフォローされて、といういつもの平和なやりとりが繰り広げられていました。しかし、平凡なサラリーマンとして働く六男の平穏は近いうちに破られることになります。昨晩、六男が公園で男たちを倒してしまったことがきっかけで半グレに目をつけられ、そこから彼の存在が拡散してしまったからです。

実は、六男が身につけている背神活殺流は“血の一族”と称された赤森家に一子相伝で受け継がれた暗殺武術で、長い歴史の中で多くの武術家が亡き者にされてきました。そのため、武術家たちに仇敵とされていたのです。にも関わらず、赤森家の足取りをつかむことができず、恨みを募らせた武術家たちが血眼になって探していたのです。

 

殺人術の使い手が、平凡なサラリーマンに憧れる理由。


平凡なサラリーマンになりたいと願う、赤森家の末っ子・六男は、否応無しに大勢の闇の武術家に狙われることに。六男は、平凡なサラリーマン生活を死守すべく、会社の人たちにバレないようにしながら、ヤクザや半グレ、警察や国連諜報員といった面々を相手にするハメになります。

六男がなぜ、赤森家を飛び出したのかは物語が進むにつれ少しずつ明らかになりますが、物語の当初から普通の人間になって普通の人生を歩みたいという思いは強く感じられます。そっとしておいてほしいのが本音だと思いますが、“血の一族”の宿命から逃れられないのか、否応なく戦いの渦に巻き込まれていくのです。

ここまでご紹介すると、ガチガチの格闘マンガっぽく思えるかもしれませんが、本作の魅力は、腕に覚えのあるさまざまな格闘家たちの戦闘はもちろんのこと、コメディ要素が多く散りばめられているところにあります。

その中心となるのは、やはり六男。彼は幼少期から殺人術の英才教育を受けてきただけに、一般常識が著しく欠けているのです。会社では先輩に“天然”と言われていますが、天然というよりはもはや変わり者。六男も自分の感覚のズレは自覚していて、普通であろうと振る舞うのですが、そうすればするほどおかしなことに。よくこんな常識知らずで企業に就職できたな、と思うのですが、現在勤務する製菓メーカーに就職が決まるまでに、面接落ち27回、書類落ち260回を経験。自分でも社会人としての適正に欠けているのがわかっていても、それこそ死ぬ気で頑張ってきたのです。

作品のキモとなる格闘の場面では、キックボクシングや空手、テコンドーやイスラエルの護身戦闘術カパプなど、さまざまな格闘術が登場し、格闘理論を丁寧に解説しているので、非常に読み応えがあり、格闘術への興味がものすごく湧いてきます。

コメディとシリアスのバランスが絶妙で、それでいてアクションシーンが格好いいだけでなくためになる! すごく盛りだくさんな内容で、かつストーリー展開も面白い。同じく週刊ヤングマガジン連載中の『ザ・ファブル』が好きならハマること間違いなし。六男は過酷な運命を背負った家に生まれ落ちたからこそ、普通や平凡の尊さを痛感していて、そのためには使わずに済むなら使いたくない殺人術を駆使し、死ぬ気で守ろうとします。その姿を見ていると、応援せずにはいられなくなります。しかし、末っ子がここまで強いとなると、上の兄5人や父はどんな人物なのか? 5/8に単行本1巻が出たばかり。一気読みすれば、天然で最強の赤森六男が絶対好きになる!
 

 

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『サツドウ』
原作:雪永ちっち 漫画:なだいにし 講談社

どこにでもいる平凡なサラリーマン。…になりたいと願う赤森六男は、代々続く古流殺法術の家に生まれた天才格闘家だった。六男の目指す平凡リーマンライフが、半グレ・ヤクザ・格闘家たちによって乱されていく――。新時代のアクションエンタメ、静かに爆誕。